第10話「むぎやの笛、誰かが消えた夜 ―城端の祭に隠された音―」
■Scene1:華やかな祭の“静寂”
富山県南砺市・城端。
秋の風が吹く9月――「城端むぎや祭り」の夜、
街には笛と三味線の音が流れ、人々は浴衣で舞を踊っていた。
しかし、その華やぎの裏で、ひとりの女性が忽然と姿を消す。
消えたのは、金沢から訪れていた観光写真家・岸本明里・31歳。
午後7時ごろまで、祭を楽しみながら写真を撮っていたが、
友人と一瞬別れた直後から連絡が取れなくなったという。
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■Scene2:笛の音が聞こえる路地裏で
城端の通りを調べていた美琴と片桐刑事。
地元の青年団から、奇妙な証言が寄せられる。
「祭の音に混じって、ひとつだけ“テンポの違う笛の音”が聞こえてて……
それが、消えた時間とぴったり重なってたんです」
その“笛”は、明らかに演奏の経験者のものだったという。
やがて、祭の屋台の裏にある細い通路で、女性のスカーフと
破損した古いコンデジカメラが見つかる。
カメラには、**被写体が逆光で顔の見えない“ひとりの男”**が映っていた。
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■Scene3:消えた過去と“見知らぬ家族”
防犯映像と現場検証を重ねるうちに浮かび上がったのは、
地元の笛演者として知られていた桐山孝志・48歳の存在。
「彼女、たぶん俺の娘なんですよ……
20代の頃、ほんの短い付き合いだった。
相手は名古屋の人で、音信不通になって……
でも写真で見た時、なんとなく……」
桐山は、明里と数日前にSNSでつながったと証言。
「会えませんか?」と連絡を取り、祭りの夜に“偶然装って”出会ったという。
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■Scene4:無理心中未遂という“動機”
消えた明里は、町外れの旅館の倉庫で発見される。
軽度の薬物中毒状態だったが、命に別状はなかった。
彼女のリュックからは、睡眠薬が数錠減った瓶と、
1枚のメモが見つかる。
「“知らないままでよかった”って言われるなら、
もう、何も撮りたくない」
――彼女は“拒絶された”と感じ、自ら命を絶とうとした。
しかし、桐山は涙ながらに語る。
「拒絶なんて……俺はただ、“間違っていたら申し訳ない”と思って……
それでも、もう一度会いたかったんです……!」
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■Scene5:音のない笛と、再会の一歩
美琴は、事件後に桐山の家を訪れる。
そこには、手入れされた笛と、封印されたアルバムがあった。
「“娘じゃないかもしれない”って理由で逃げるには、
あまりにもあの子の目が……俺と、同じだったんです」
片桐が言う。
「“本当の家族”じゃなくても、
気づいた瞬間から“選ぶこと”はできたんだよ」
数日後、桐山と明里は静かに再会する。
家族の定義は曖昧でも、“これから”を話すことはできた。
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■Scene6:むぎやの風、金沢の湯へ
城端の夜が明け、美琴は金沢へ戻る。
テルメ金沢にて、女将としての2日間の仕事が始まる。
旅館に帰ってきた美琴を、仲居頭・佐藤菜摘と、仮女将・美羽が出迎える。
菜摘「ようやく戻ってこられましたね、女将さん」
美羽「大丈夫です、2日間だけなら……あたしが全部覚えたので!」
帳場で帳簿を広げながら、美琴が呟く。
「事件がない日って、案外……不安なのよね。
平穏すぎると、“次に来る何か”を想像してしまうから」