表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/107

第10話「むぎやの笛、誰かが消えた夜 ―城端の祭に隠された音―」


■Scene1:華やかな祭の“静寂”


富山県南砺市・城端じょうはな

秋の風が吹く9月――「城端むぎや祭り」の夜、

街には笛と三味線の音が流れ、人々は浴衣で舞を踊っていた。


しかし、その華やぎの裏で、ひとりの女性が忽然と姿を消す。


消えたのは、金沢から訪れていた観光写真家・岸本明里きしもと あかり・31歳。

午後7時ごろまで、祭を楽しみながら写真を撮っていたが、

友人と一瞬別れた直後から連絡が取れなくなったという。



■Scene2:笛の音が聞こえる路地裏で


城端の通りを調べていた美琴と片桐刑事。

地元の青年団から、奇妙な証言が寄せられる。


「祭の音に混じって、ひとつだけ“テンポの違う笛の音”が聞こえてて……

それが、消えた時間とぴったり重なってたんです」


その“笛”は、明らかに演奏の経験者のものだったという。


やがて、祭の屋台の裏にある細い通路で、女性のスカーフと

破損した古いコンデジカメラが見つかる。


カメラには、**被写体が逆光で顔の見えない“ひとりの男”**が映っていた。



■Scene3:消えた過去と“見知らぬ家族”


防犯映像と現場検証を重ねるうちに浮かび上がったのは、

地元の笛演者として知られていた桐山孝志きりやま たかし・48歳の存在。


「彼女、たぶん俺の娘なんですよ……

20代の頃、ほんの短い付き合いだった。

相手は名古屋の人で、音信不通になって……

でも写真で見た時、なんとなく……」


桐山は、明里と数日前にSNSでつながったと証言。

「会えませんか?」と連絡を取り、祭りの夜に“偶然装って”出会ったという。



■Scene4:無理心中未遂という“動機”


消えた明里は、町外れの旅館の倉庫で発見される。

軽度の薬物中毒状態だったが、命に別状はなかった。


彼女のリュックからは、睡眠薬が数錠減った瓶と、

1枚のメモが見つかる。


「“知らないままでよかった”って言われるなら、

もう、何も撮りたくない」


――彼女は“拒絶された”と感じ、自ら命を絶とうとした。

しかし、桐山は涙ながらに語る。


「拒絶なんて……俺はただ、“間違っていたら申し訳ない”と思って……

それでも、もう一度会いたかったんです……!」



■Scene5:音のない笛と、再会の一歩


美琴は、事件後に桐山の家を訪れる。

そこには、手入れされた笛と、封印されたアルバムがあった。


「“娘じゃないかもしれない”って理由で逃げるには、

あまりにもあの子の目が……俺と、同じだったんです」


片桐が言う。


「“本当の家族”じゃなくても、

気づいた瞬間から“選ぶこと”はできたんだよ」


数日後、桐山と明里は静かに再会する。

家族の定義は曖昧でも、“これから”を話すことはできた。



■Scene6:むぎやの風、金沢の湯へ


城端の夜が明け、美琴は金沢へ戻る。

テルメ金沢にて、女将としての2日間の仕事が始まる。


旅館に帰ってきた美琴を、仲居頭・佐藤菜摘と、仮女将・美羽が出迎える。


菜摘「ようやく戻ってこられましたね、女将さん」

美羽「大丈夫です、2日間だけなら……あたしが全部覚えたので!」


帳場で帳簿を広げながら、美琴が呟く。


「事件がない日って、案外……不安なのよね。

平穏すぎると、“次に来る何か”を想像してしまうから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ