第7話「灯の記憶と、合掌の影 ―五箇山、誰かがいた家―」
■Scene1:人気のない民家の“明かり”
富山県南砺市・五箇山の山あい。
古くから続く合掌造りの民家が並ぶこの地に、村人の間で不穏な噂が広がっていた。
「もう誰も住んでないはずの“森下家”に、夜な夜な灯が灯るんです。
しかも、影まで見える。ひとりじゃない……ふたりいるって」
通報を受けた地元警察が確認に入るも、人の気配はなく、窓も施錠されたまま。
不安を抱いた役場職員が、**金沢で事件を扱う探偵(女将)**に依頼を出す――
白石美琴は片桐刑事とともに、五箇山へ向かった。
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■Scene2:合掌造りの“森下家”
明治期から続いた旧家・森下家。
20年前に当主が亡くなり、子どもたちは全員市街地へ移住。
以来、空き家として保管されていた。
「でも、1週間前からなんです。
暖房も電気もないのに、明かりが見える。
火も水も通ってないのに、誰かが“そこで生活してる”感じで……」
夜。美琴と片桐が張り込むと、確かにぼんやりとした灯が窓に映り、
縁側を行き来する“影”が見えた。
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■Scene3:扉の奥に、置かれた写真と遺体
鍵を開けて中に踏み込むと――
囲炉裏には熾火が残っていた。
そして仏間には、血痕と枕元に置かれた遺体が。
亡くなっていたのは、長男である森下弘人・45歳。
胸部を刺されており、死後1日以上が経過していた。
驚くべきは、傍らに置かれていた一枚の家族写真。
そこには若き日の弘人と妹・沙希の姿。
だが、妹・沙希は8年前に事故死していたはずだった――
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■Scene4:“死んだ妹”が映っていた?
仏間の正面の床の間には、
なぜか“最近撮影されたと思われる写真”がもう一枚、飾られていた。
弘人と、そして沙希そっくりの女性が一緒に写っていた。
美琴と片桐は、地元住民の証言から“沙希の事故”に疑念を抱く。
そして、当時の新聞記事を再確認する中で――
沙希は“身元不明の女性と一緒に転落”していたが、
“遺体の判別”が不明瞭だったことが判明。
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■Scene5:再会と贖罪
やがて、近くのバス停で保護された女性がいた。
記憶があいまいで名乗ろうとしなかったその女性は――
DNA鑑定により、沙希本人と判明。
彼女は事故で記憶を一部失い、他人と誤認されたまま、
長らく“他人として生きていた”。
最近になって少しずつ記憶が戻り、兄・弘人に連絡。
兄は秘密裏に彼女を家に迎え入れたが、数日後に死亡。
沙希はこう語った。
「あの夜、“もう一度家族になろう”って言ってくれたんです。
でも……誰かが、私たちのことを“よく思ってなかった”。
誰なのか、わからないまま、兄は倒れて……」
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■Scene6:犯人の動機と、閉じた時間
犯人は、村で森下家の“財産相続”に絡む係争を抱えていた従兄弟だった。
沙希の存在が“相続の再審査”を生むことを恐れ、
弘人に接触し――酒に薬を盛った上で刺殺したと供述。
「“死んだはずの妹”が戻ってきたなんて……
これまで手に入れたもの、全部崩れるじゃないか」
片桐はつぶやく。
「金で殺したのか、怯えで殺したのか……
けど、一番許されないのは、“家族”を奪ったことだ」
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■Scene7:合掌の灯に、微かな祈り
事件が収束した夜。
宿の縁側で、美琴が囲炉裏の火を見つめていた。
「灯って、不思議ね。
どんなに時が経っても、“帰ってきた人”の居場所を教えてくれる」
悠真が静かに寄り添う。
「誰かが待ってるって思える場所があるだけで、
人は、きっとどこまでも歩いていけるんだろうな」