第6話「峡谷に閉ざされた扉 ―黒部、忘れられた宿にて―」
■Scene1:奥黒部の宿から届いたSOS
富山県・黒部峡谷。
トロッコ列車でしか行けない**深山の温泉宿「やまがみ庵」**から、金沢の美琴のもとに1通の手紙が届く。
「10年ぶりの再会なのに……
お客様が“誰かに殺された”と叫んで消えました。
でも、警察には言えないんです。
あの部屋だけは、絶対に開けてはいけないって、言われてるから――」
送り主は宿の若女将・折原綾香。
学生時代に美琴と親しくしていた旧友だった。
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■Scene2:封鎖された「翡翠の間」
美琴と片桐刑事、そして悠真も同行し、峡谷を越え宿に到着。
宿の一角には、10年前のある事件を境に「封鎖されたままの部屋」があった。
部屋の名は――翡翠の間。
宿の記録によれば、10年前に“失踪した宿泊客”がいたが、
遺体も痕跡も見つからず、“部屋だけが消されるように”閉ざされたままになっていた。
今回の“叫んで消えた客”は、その失踪した人物の娘――
名を宮川美咲・28歳。
彼女は母の失踪を追ってこの宿を訪れ、翡翠の間の前で叫び声をあげた後に消えた。
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■Scene3:閉ざされた空間の“第二の死”
翡翠の間を開けた美琴たちは、誰もいない室内に違和感を抱く。
•鍵は内側から閉じられていた
•机の上には紅茶のカップが2つ
•古びた鏡台に“誰かが触れたような跡”
「ここで、誰かと“話していた”のは確かね。
問題は、“もう一人がどこに消えたか”……」
部屋の床下を調べた片桐は、畳の下に隠された小扉を発見。
その先は、かつての避難通路――
だが、そこには白骨死体と、美咲の身につけていたイヤリングが。
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■Scene4:過去と現在が重なった“記憶の残響”
DNA鑑定の結果、白骨死体は10年前に失踪した**宮川絵梨花(美咲の母)**と判明。
つまり、美咲は部屋の“どこか”で、
母の遺体に直面した可能性がある。
さらに、宿の古株仲居からこんな証言が飛び出す。
「あの人、亡くなる直前、“娘を呼ばないで”って何度も言ってたんです……
『この部屋には“まだ誰かいる”から、入っちゃダメって」」
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■Scene5:“幻聴”と“罪”の交錯
美咲は宿の裏手、川の岩場で無事に保護される。
「……声が聞こえたの。
“まだ、ここにいるよ”って。
だから、閉ざされた扉を開けたの。
そしたら、お母さんが……私を待ってた」
彼女は母の死を、“自分のせい”と思い続けていた。
10年前、些細な口論の後、母は旅に出てこの宿で命を落とした。
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■Scene6:雪解けの峡谷に灯るもの
事件は事故死として処理されたが、
部屋の“閉鎖”と遺体の隠蔽には、当時の支配人の意向が働いていたことも明らかに。
「“風評を恐れて”封じたんです。
でも、誰かの人生を封じるようなことは……もう、二度としません」
その夜、宿の露天風呂で、美琴は空を仰ぐ。
「誰かを“記憶の中に閉じ込める”のは、ほんとうに怖いわ。
でも、解き放つには――愛していた記憶も、手放さなきゃいけないのね」
悠真が隣で湯に浸かりながら微笑む。
「でも、俺は手放さないよ。
今のお前も、昔のお前も、どっちも愛してるから」