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第3話「静寂の水辺と、止まった時間 ―環水のほとりにて―」


■Scene1:夜の運河と、ひとりの女性の死


春の夜。富山駅から徒歩15分ほどの場所にある富岩運河環水公園。

ライトアップされた天門橋のふもとにて――

早朝、ひとりの女性の遺体がベンチに腰掛ける形で発見された。


死亡推定時刻は深夜0時〜2時。

目立った外傷も暴行の形跡もなく、原因不明の突然死とされたが――

現場の状況に違和感が残った。


「靴がきれいすぎる……

この地面、昨夜は雨でぬかるんでたはずなのに」


そう指摘したのは、現場に呼ばれた片桐刑事だった。



■Scene2:彼女の“死に装束”


遺体となっていたのは、近隣の市役所で働く女性・村田あすか(28歳)。

彼女の服装は、勤務後に着替えたと思われる真新しいワンピース。

しかし所持していたスマホには、意味深なメモが残されていた。


「水の中に、昔の私がいる。

見つけられるように、今日は“花の服”を着ていく」


スマホのアルバムには、“桜が舞う水辺で笑う幼い女の子”の写真が保存されていた。



■Scene3:“環水”に映る過去の事故


富山県警の調査で、10年前――

同じ公園で、少女が遊んでいた際に“水辺から落下して頭を打ち、記憶を失った”事故記録が浮かぶ。


事故当時の少女の名前は――村田あすか。

つまり、今回の被害者本人だった。


彼女は“事故以前の記憶”をずっと取り戻せずに育っていた。

日記にはこう書かれていた。


「あの水の中に、何かがある気がして仕方ない。

私は、そこで何か大事なものを落としてきたんだと思う」



■Scene4:ベンチに仕組まれた“意図”


現場のベンチ下から、小さなタイマー付き拡声機が発見された。

夜0時に自動で“ある音声”を流すようセットされていた。


「あなたは、ここで待ってるだけでいい。

あなたの記憶はすべて、風と水の中にあるんだから」


美琴はその音声に凍りつく。


「これ……彼女の声じゃない。“別人”の声よ」


音声データの波形照合により、元職場の上司――**市役所職員・安原やすはら**が浮上する。



■Scene5:解かれた“導き”


安原は自白する。


「彼女は、自分の過去を取り戻したいと言ってた。

でも、思い出したときに“自分が幸せじゃなかった”ら、悲しいだろ?

だから、“美しいままの記憶”を持たせてあげたかったんだ」


あすかは、“記憶の欠片”を求めて訪れたその夜、

安原が用意した“声の演出”によって、水辺に立ち尽くしたまま低体温症で亡くなったとみられた。


「……優しさの形を、間違えたんですね」



■Scene6:春の灯に浮かぶ、記憶のかけら


その夜、美琴は環水公園を再び訪れる。


天門橋の上から水面を見つめると――

水辺には、あすかが着ていたワンピースと同じ模様の“花の影”が映っていた。


「彼女は、本当にあの場所に帰りたかったのか。

それとも、“帰れなかった自分”を手放したかったのか……」


片桐がそっと横に立つ。


「答えは本人にしかわからん。

けどな、美琴。あんたが見届けたなら、それでええんや」


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