第2話「風の盆と消えた声 ―八尾に響く三味線の夜―」
■Scene1:風の町に、ひとつの依頼
富山県・八尾。
おわら風の盆の街並みに、三味線の音が静かに響いていた。
美琴と片桐刑事は、この町にある小さな民宿の主人から連絡を受けていた。
「3日前、東京から来た中学生の女の子が、家族とはぐれたと言ってウチに来て……
でも、次の朝、“ふらっと出てった”まま、戻ってこないんです」
名前は滝口由梨。13歳。
家族旅行の最中に、「どうしても別の道を歩きたい」と言って単独行動。
民宿にたどり着いた夜、彼女はこう言っていたという。
「“ここに、私を呼んだ音がある”って」
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■Scene2:町の空き家と、夜の三味線
地元住民から聞き込みをしていた美琴は、ふと気づく。
「……この通り、ひとつだけ空き家が多い。
でも、そのうちの一軒、“夜になると音がする”って言ってた人がいたわ」
その空き家には、古びた三味線が残されており、風が強い日には糸が振動して音が鳴るという。
「まさか――それを“誰かの声”と錯覚した?」
だが片桐は、町の資料館で見つけたある記事に目を止める。
「昭和60年、八尾町内にて“音に導かれて消えた少女”が報道に。
家族の証言:『風が導いたのだと、今でも思う』」
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■Scene3:風とともに消えた理由
調査の結果、由梨の父親が、かつてこの町で演奏者をしていた三味線奏者の息子であることが判明。
そして、由梨自身にも軽い幻聴の傾向があり、
“音”を感知する感覚が非常に鋭いことも記録されていた。
「彼女は……無意識のうちに、“記憶の土地”に引き寄せられていたのね」
さらに、空き家の押入れから由梨が残したメモが発見される。
「ここに来てよかった。
お父さんの音が、まだここにいた。
風が、それを教えてくれた」
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■Scene4:少女の帰還と、町に残った灯
翌朝、町外れの廃屋で由梨が無事に発見される。
身体に怪我はなく、彼女はこう言った。
「……迷ったわけじゃないの。
ただ、風の中にいた音が、私を導いてくれたの。
寂しくなかった。ずっと、誰かが弾いてくれてたから」
民宿の主人と美琴は、ほっと息をつき、彼女を家族のもとへ送り出した。
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■Scene5:旅館の夜、音の意味を思う
金沢へ戻った美琴は、帳場に戻りながらふと呟く。
「音って、不思議ね。
誰かを思い出させたり、誰かを導いたり……
言葉じゃないのに、届くことがある」
悠真がそっと背中に触れながら言う。
「……お前の声も、俺にとってはそんな音なんだよ」
それに答えるように、館内放送から流れたピアノの調べが、夜の旅館を優しく包んだ。