第0話「継がれる灯、旅立ちの朝 ―第二部 序章―」
第二部へ… まだ未登場の舞台が沢山出てきます。
楽しみにして待ってて下さい。
■Scene1:旅館の朝、変わらぬ風景と新たな風
春の訪れとともに、テルメ金沢にはやわらかな朝日が差し込んでいた。
帳場の前で、白石美琴は帳簿を整えながら、ひとつ深呼吸をする。
「……今日も、変わらない一日でありますように」
しかしその願いとは裏腹に、厨房から爆音が聞こえ、
奥から「ちょっと!油が跳ねてるってば!」という妹・美羽の声が響いた。
「……変わらないけど、穏やかとは限らないわね」
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■Scene2:片桐刑事の“引退宣言”?
昼過ぎ、いつものように帳場の椅子に座っていたのは――
美琴の祖母の幼馴染であり、金沢を代表するベテラン刑事、片桐刑事だった。
「女将、実はな……俺、この春で本庁から外れて、相談専門の立場になるんだとさ」
「……それって、“引退”ですか?」
「“一歩手前”だ。けどな、暇にはならん。どうせまた、お前が呼ぶからな」
その瞬間、片桐の携帯が鳴った。
着信先は富山県警。内容は――黒部ダムでの観光客転落死。
「……事故か事件か。
まぁ、行ってみりゃ、わかることだ」
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■Scene3:刑事である夫の後ろ姿
その日の夜、金沢西署に勤務する刑事――高橋悠真が帰宅した。
「ただいま。美琴、明日から富山行くんだって?」
「ええ。片桐さんと……たぶんまた、何か起きる気がしてるの」
悠真は美琴のコートの肩を直しながら言う。
「……もしその“何か”が、どんなに怖くても――
俺は、またお前を守るから」
「ううん。あなたは“私を守る人”じゃなくて、“一緒に背負う人”でいてほしい」
ふたりの視線が重なった瞬間、廊下で美羽が茶碗を割った音が響いた。
「……ごめんっ!今のは完全に事故!」
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■Scene4:灯が宿る場所、そして始まりの一歩
翌朝。美琴は帳場の鍵を閉め、スタッフたちに深く頭を下げた。
「数日、不在にします。
でも、もし戻ってこなかったら――旅館の帳場には、灯をともしておいてください」
仲居頭の佐藤菜摘が呆れたように笑う。
「戻ってこないわけないでしょ、あんたがいないと朝礼がだれるのよ」
美琴はふっと笑い、片桐刑事とともに旅館をあとにする。
その背中に、静かに風が吹いた。
それは、新たな事件の呼び声。
未だ語られていない北陸の闇が、美琴を待っていた。