第30話「なぎさの車と、静かな遺体 ―千里浜に残された女―」
■Scene1:波打ち際の異変
早朝5時過ぎ。
観光客の通報で、千里浜なぎさドライブウェイの駐車スペースに止められたままの黒いSUVが発見される。
窓ガラスは曇っており、助手席には加賀友禅のショールを羽織った女性の遺体が横たわっていた。
顔は穏やか。争った跡もなく、手には海岸の小石がひとつ握られていた。
確認の結果、遺体は――桐谷沙良。
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■Scene2:密室車両と“動かなかったエンジン”
現場検証で判明したこと:
•エンジンは切られていたが、エアコンの暖房は数時間作動していた形跡あり
•ドアには施錠されており、指紋は“沙良本人”と“何者か”の2種
•スマートキーが見つからない
•口元には**痕跡の残らない薬物(睡眠剤+CO中毒誘導性ガス)**の反応
「……“眠ったまま死なせた”ということか」
悠真が呟く。
「しかも、“自然死に見せかける”技術……素人じゃないな」
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■Scene3:再び現れた“笹原恭平”
車両のナンバーから判明したレンタカーの契約名義――
それは“未チェックインだった部屋”と同じ、「笹原恭平」。
笹原は過去に数件の“保険金事件”の関係者としてマークされていた。
「……沙良さんにかけられた“個人契約の保険”の受取人、笹原の名義になってる」
「まさか……沙良さんは利用された……?」
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■Scene4:最後の通話と、消されたログ
スマホの解析で、沙良が“最後にかけた相手”は――夫・大悟だった。
「……大悟、ごめんね。私、やっぱりあの人の言うこと、信じちゃった。
でも、もし何かあったら、車の中の石、見て。
“私が選んだ場所”は、そこなの……」
石の裏には、油性マーカーでこう書かれていた。
「あの夜、私は自分の意志でそこにいた――けど、眠ったのは違う。」
美琴は呟く。
「彼女は、“だまされたこと”を最後に残したかった。
それが、あの小石の意味」
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■Scene5:女将の視線と、ひとつの正義
犯人・笹原は逃走したが、スマートキーと薬物の入手経路から、早晩逮捕されると見られている。
悠真が言う。
「……残されたものが“語る声”に、ちゃんと耳を傾けてくれたから救われた。
お前みたいな“女将”が、な」
美琴は穏やかに答えた。
「宿帳の名前より、言葉の重みより、
“誰かが、ちゃんと見てくれてた”ってことが――
一番、力になるのかもね」
なぎさを撫でる潮風が、今日も静かに吹いていた。
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