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第27話「赤煉瓦の囁き ―封印された歴史と“泣いていた肖像画”―」


■Scene1:歴史博物館からの依頼


春のはじまり。

テルメ金沢に一本の電話が入る。


「白石さん、すみません……歴史博物館の管理室からです。

実は、展示中の“肖像画”が夜中に濡れていたという報告があって……

誰も触っていないはずなのに、涙のように額の内側に水滴がついていたんです」


白石美琴は、すぐに片桐刑事に連絡を取り、現地へ向かう。


「……“泣いていた肖像画”、ね。

こういう話のあとに、何かが起きないことなんて、ないのよね」



■Scene2:赤煉瓦の展示室と“手袋の痕”


石川県立歴史博物館。

明治期の赤煉瓦建築を活かした重厚な建物の中、問題の肖像画が展示されていた。


それは、幕末に金沢藩に仕えた若き学者――**氷川廉太郎ひかわ れんたろう**のもの。


事件当夜、監視カメラには誰も映っていなかったが、額の縁に手袋の跡が浮かんでいた。


「誰かが“記録に残らない方法”で、額に触れた可能性がある」


片桐が言う。


「問題は“何のために”だな。

ただの悪戯じゃなく、“何かを伝えたかった”ように思える」



■Scene3:女学生の記録帳と、失われた研究


博物館職員の案内で、美琴と片桐は所蔵庫を調査。

そこで発見されたのは、ある女学生の手記。


「氷川先生は、“未来の金沢”を描いていた。

でも、その考えを“危険だ”と評した者たちが、先生の研究室を封じた。

彼の最後のノートは、“赤煉瓦の中に眠っている”」


「……これ、本物の証言?」


しかも、その女学生の名は――氷川の婚約者だった女性の妹だった。



■Scene4:隠された扉と、消された日付


美琴は展示室の壁の一部が不自然に“響きが異なる”ことに気づく。


「ここ、裏に空間がある……?」


片桐の指示で壁板を一部外すと、そこには小さな扉。

中には、古びた木箱とノート、そして封筒に入った未開封の遺書が残されていた。


「私は金沢の未来を信じた。

 だが、私の言葉が届くのは100年先かもしれない。

 それでも、誰かが私の“想い”を見つけてくれるのなら――私は、今夜もここで、泣いている」


ノートには、“市民による図書館構想”や、“女性の教育支援”など、明治の時代には“異端”とされた数々の提案が記されていた。



■Scene5:封印を解いた者と、追跡者の影


翌朝。館外の防犯カメラに、数日前に訪れていた女性の姿が確認される。


彼女は、氷川の婚約者の末裔であり、現在は東京で歴史研究を続ける人物だった。

名前は、瀬野原紗英せのはら さえ


彼女が“手袋で額を開け、遺書を残し、立ち去った”と見られる。


「……彼女は、ただ“記録”を表に出したかったんでしょうね。

でも、自分がやったとは言わずに。

“想い”だけを、ここに残して――」


美琴の言葉に、片桐も静かに頷いた。



■Scene6:夜の博物館と、夫婦の時間


その夜。

展示室に再び訪れた美琴は、夫・高橋悠真と並んで肖像画を見上げていた。


「……笑ってるように見えるね、氷川さん」


「きっと、“やっと誰かが見つけてくれた”って、ホッとしたんだろうな」


「私もね、そういう場所を残したいの。

誰かが“声を出さずに泣いたとき”、ちゃんと気づける場所を」


悠真がそっと手を握る。


「お前が立ってる場所なら、きっとそれができるさ」


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