第26話「犀川に佇む影 ―茶室に届いた一通の招待状―」
■Scene1:一通の招待状と“茶会の死角”
早春のある朝、テルメ金沢に届いた封書。
それは、犀川沿いの静かな茶室・**翠心庵**で行われる非公開の茶会への招待状だった。
「白石美琴様へ――貴女の“立ち居振る舞い”を一度拝見したく存じます。
その所作こそが、失われた“ひとつの答え”に導く鍵なのです」
「……どういう意味?」
奇妙な文面に戸惑いながらも、美琴は片桐刑事とともに茶室へ向かうことを決意する。
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■Scene2:茶室での“6人”と沈黙の作法
翠心庵。
犀川の流れを借景にした純和風の茶室に、美琴と片桐が足を踏み入れると、
すでに数名の参加者が静かに席についていた。
その中のひとりが、ふと立ち上がる。
「……白石さん?」
刑事として別の事件を追っていた高橋悠真だった。
「偶然……いや、きっとこれも“呼ばれた”ってことかもな」
6人の招待客、静まり返った茶室、そして一杯の抹茶。
だがその時間の最中――ひとりの女性が音もなく倒れた。
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■Scene3:音なき毒と、微笑む客人
倒れたのは、能登から来たという60代の女性。
命に別状はなかったが、ごく微量の睡眠性毒物が茶碗に残されていた。
「全員同じ茶を飲んでいたはず……だが、毒が入っていたのは彼女の碗だけ。
誰かが、“特定の茶碗”を選ばせた……?」
悠真が事件の捜査記録を照合する中、
片桐刑事がささやく。
「……この茶会、“誰かを試す”ために開かれたんだ。
女将、お前もその一人かもしれんぞ」
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■Scene4:川辺にて、立ち尽くす男の正体
事件直後、犀川沿いの遊歩道で、不審な男が立ち尽くしていた。
男は、一切の証言を拒否し続けていたが――
美琴が手にした茶室の見取り図を目にすると、ふと口を開いた。
「……あのとき、“彼女だけが見えなかった”。
なぜなら、“私が選んだ碗”は、元々……“父の遺品”だったから」
その男こそ、毒を盛られた女性の息子・新城透。
数十年前に父を事故で亡くし、母への“復讐”を企てていた。
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■Scene5:女将の所作、そして嘘の解除
事件を追いながら、美琴は一つのことに気づく。
「“所作”って……私が見られていたのは、立ち居振る舞いじゃない。
“誰がどの茶碗を、どの順番で取るか”――それを自然に導くように、
空間が“設計”されていたのよ」
その“動線”を見抜き、毒の茶碗が“誰に届くはずだったか”が明らかになる。
「……あなた、本当は“母を殺したい”んじゃなかった。
あなたの“恋人”が、かつて母親に追い出されたから――その“報い”を母に返したかった」
涙ぐむ新城の目に、微かに真実の色が滲んだ。
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■Scene6:川の流れと、夫婦の会話
事件後。犀川沿いを歩く美琴と悠真。
「……やっぱりお前の観察力には敵わないな」
「ふふ、でも現場に駆けつける速さはあなたの方が上。
あの日だって、私より5分早く着いてたじゃない」
「そりゃ――女将が呼ばれた茶室だもんな。
俺にとっては、すでに“現場”だよ」
ふたりは手を取り、犀川に落ちる夕陽を見つめた。
片桐刑事が遠くから声をかける。
「おーい、のろけるのは帰ってからにしろ!」