第22話「白山比咩神社の祈り ―神隠しと“目撃者のいない少女”―」
■Scene1:神域からの依頼
ある日、テルメ金沢に1通の封書が届いた。
差出人は、**白山市・白山比咩神社**の神職・朝霧 澪。
「境内で“ひとりの少女”が突然、姿を消しました。
監視カメラもなく、目撃者もおりません。……神隠しと言うしかありません」
白石美琴はすぐに片桐刑事とともに現地へ向かうことを決める。
「……“神の山”で起きた神隠し。
これは、普通の事件じゃないわ」
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■Scene2:静寂の神社と少女の残したもの
白山比咩神社。
荘厳な杉並木に囲まれた境内には、冬の冷気と神聖な静けさが漂っていた。
神職の澪が語る。
「少女は“白いワンピース”を着て、午前中に参拝に来ていました。
数分目を離した隙に、跡形もなく消えたんです。
靴だけが、鳥居のそばに揃えて置かれていました」
足跡はなかった。防犯設備もなし。
まさに“神隠し”のような消失。
片桐が呟く。
「人の手じゃない……そう思わせたい誰かがいるのかもな」
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■Scene3:捜索と、石段の途中で
美琴は、少女の母親・相沢恵梨香と話す。
「娘の名前は、**相沢 心音**です。
静かで、人混みが苦手な子でした。
でも、“ここに来たい”って、言い出したんです。初めてのことでした」
美琴はその言葉に引っかかる。
「自分から“神社に行きたい”……?」
神社の石段を降りる途中、美琴は小さな“白い髪飾り”を見つける。
それは、少女が着けていたものと一致していた。
「誰かが、心音ちゃんを“どこかへ導いた”のかも……」
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■Scene4:祈りの社の奥にて
境内の裏手には、立ち入り禁止となっている小さな旧社があった。
長く使われていない社殿――だが、鍵は最近開けられた形跡があった。
中に入った美琴と片桐は、そこで白いワンピースを着た少女・心音を見つける。
彼女は驚いたように目を開いた。
「……夢を見てたの。お父さんと、お母さんと……もう一度一緒にご飯を食べてる夢」
心音は、最近離婚した父の記憶を繰り返していた。
その“夢の中の幸せ”を見ていたくて、社の中に隠れていたのだ。
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■Scene5:母と娘、そして灯籠の下で
心音と恵梨香は、境内の灯籠の下で再会を果たす。
「……ごめんね、気づいてあげられなくて」
「私、忘れたくなかったの。お父さんといた時間を」
母は静かに少女を抱きしめた。
美琴はそっと目を伏せる。
「“神隠し”じゃなかった。
でも、彼女の想いが、ここに“留まりたい”と願った結果だったのね」
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■Scene6:神の山に降る雪と、女将の背中
下山する道すがら、美琴はふと振り返った。
「……この地に伝わる神話、“人を守るための隠し場所”って意味、知ってる?」
片桐が頷く。
「逃げるんじゃない。守るために“隠す”――なるほど、“神隠し”ってのも、悪いもんじゃないのかもな」
静かに雪が舞う中、白山の山影が、女将の背中を包み込んでいた。