連携編『北陸合同事件 ―湯けむりとキムチと、消えた花嫁』』
Scene1:観光バスの中で
春先の金沢。
桜が舞う観光シーズンに、美琴は旅館の繁忙期対応で慌ただしくしていた。
その頃、近江町市場から金沢駅に向かう観光バスの車内で、ある韓国人女性が声を上げる。
「すみません……私の財布が、ないんです……!」
女性の名は――朴凛奈。
韓国で女優・探偵として知られる存在だが、今回はあくまでオフ。
日本の旅番組のゲスト出演で金沢を訪れていた。
だがそのとき、凛奈の表情が一瞬だけ変わる。
「――これは、ただの盗難じゃない」
観察力と直感が、そう告げていた。
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Scene2:テルメ金沢に届いた一通の予約
旅館・テルメ金沢では、美琴がチェックイン対応に追われていた。
そこに、奇妙な客の名前が届く。
「“パク・リンナ様、2名”…?韓国から?」
予約には、旅館ではありえない「特別待遇」と「警察非通知での対応希望」が添えられていた。
片桐刑事もこれを不審に思い、美琴と共に裏口での対応を準備する。
「韓国の要人……いや、事件関係者か?」
そして、指定時刻ぴったりに現れた凛奈は、旅館を見上げながら言った。
「……この場所が、最後の“鍵”になる気がするんです」
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Scene3:消えた花嫁と、影を引く結婚式場
凛奈が語ったのは、韓国・釜山で関わった未解決事件。
婚約者の前から突如姿を消した日本人女性――橘 遥香。
彼女の最後の足取りが、なぜか金沢市内の小さな結婚式場に残されていた。
美琴は驚いた。
その式場こそ、テルメ金沢の姉妹施設『迎賓館・結の間』だったのだ。
「彼女は……あの場所で、何を?」
凛奈と美琴、そして片桐は、合同で聞き込みを開始する。
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Scene4:白無垢の幽霊と“影の演出家”
式場では、近頃「白無垢姿の女」が夜中に現れるという噂が立っていた。
しかも、その姿を目撃した者が相次いで不可解な発作や記憶障害を訴えている。
凛奈は言う。
「これは“演出”じゃない。誰かが、誰かに“忘れてほしい”記憶を植え付けている」
やがて浮上する人物――
式場でイベント演出を請け負っていた男、神宮寺 昇。
韓国でも同様の手口で女優を追い詰め、追放された過去を持っていた。
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Scene5:キムチと湯けむりと、眠る探偵
事件が複雑化する中、凛奈は旅館の部屋で瓶詰の特製キムチを取り出す。
「これを食べると――ほんの少しだけ、過去が見えるんです」
美琴が驚く間もなく、凛奈は一口食べると、そのまま眠りに落ちる。
“眠る探偵”の異名は、伊達ではない。
やがて凛奈が目覚めると、静かに呟いた。
「彼女は、結婚式当日の夜、あの“中庭の池”に誘い出されていた。
でも、そこで何かが起きた……」
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Scene6:真実と、再会の場所
翌朝。
中庭の池の底から、古いブローチとドレスの切れ端が発見された。
そして近くの防犯カメラには、遥香と神宮寺の言い争う姿が、かろうじて映っていた。
「花嫁は逃げようとした。そして、彼に薬を打たれ……連れ去られた」
神宮寺の自宅には、薬物と盗撮機材、偽造書類が見つかり、警察により逮捕。
その後、郊外の廃屋で、意識不明だった遥香が発見される。
彼女は今、少しずつ記憶を取り戻し始めていた。
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Scene7:ふたつの国、ふたつの探偵
事件が解決し、旅館に穏やかな日常が戻る。
朝の温泉で、美琴と凛奈は静かに湯けむりの中にいた。
「日本の旅館って、やっぱり……心がほぐれる。
それに、美琴さんと一緒なら、また事件があっても怖くないかも」
凛奈が微笑むと、美琴も穏やかに笑い返す。
「そのときは、また“湯けむりの中”で、お会いしましょう」
そして、凛奈は金沢を後にした。
その背中には、どこか“次の事件”を予感させる風が吹いていた――。