表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/107

特別編『出生の真実と再訪者の謎』



Scene1:ある手紙と、朝の来訪者


金沢の朝は、ゆっくりとした湯けむりに包まれていた。


旅館・テルメ金沢の若女将、美琴みことは、いつものように帳場で一日の準備を整えていた。

その手元に、見慣れない封筒が置かれていたのは、前夜のことだ。


「……差出人、なし?」


筆跡はどこか懐かしく、美琴は封を切る。

中には短い一文と、古びた写真が一枚――

そこに写っていたのは、まだ幼かった美琴と美羽、そして……見知らぬ女性だった。


「あの人に、もう一度会ってほしい。私は……あなたの母ではない。」


その瞬間、玄関のチャイムが鳴る。

現れたのは、年配の女性と、その後ろに控える30代の女性だった。


「ご無沙汰しております。私、**岸田志乃きしだ しのと申します。こちらは娘の瑠海るみ**です。

……昔、この旅館で働いていた者です」


美琴の胸に、得体の知れない鼓動が高鳴る。



Scene2:記憶の中の女中部屋


志乃と瑠海を応接間に通し、お茶を淹れる美琴。

志乃は静かに語り始める。


「美琴さん、お母様……いえ、律子さんには本当に世話になりました。

けれど、あなたの“生まれ”について、きちんと話す機会が、今までなかったと思って……」


瑠海が差し出したのは、20年以上前の日記だった。


《1999年4月17日 “ふたり”が来た。

 一人はあの人の血を引き、一人は……。

 けれど、どちらも愛しい。名前は――美琴と美羽。》


日記の主は、旅館の先代大女将――すなわち、美琴の祖母だった。


そして志乃が語る“もう一人の母”の存在。

彼女こそが、かつて旅館で身を隠すように暮らしていた女性、山岡詠子やまおか えいこ

彼女が産んだ子――それが、美羽なのだという。



Scene3:美羽の選択、美琴の動揺


夜。浴衣姿の美羽が帳場を訪れる。


「ねぇ、美琴。……もしかして、私たち、本当は“血のつながり”がないの?」


静かに頷く美琴。

志乃の来訪以降、家の空気はどこか張り詰めていた。


「それでも、私にとっては妹だよ。血なんか関係ないって、ずっと思ってきたから……でも、ちょっとだけ、揺らいじゃった」


美琴は、そっと美羽の肩に手を置いた。


「私も同じ。だからこそ、ちゃんと話す。……あなたの母親が、もしかしたら、まだどこかにいるって」



Scene4:詠子からの“もう一通の手紙”


その夜、美琴の部屋の窓辺に、もう一通の手紙が置かれていた。

誰にも気づかれずにそっと差し込まれたもの。


「美琴へ。あなたと美羽のどちらかを選べなかった、私の弱さを許してほしい。

 本当は、あなたにも母でいたかった。だけど、それはできなかった。

 詠子」


添えられていたのは、ふたりの赤ん坊を抱いた詠子の若き日の写真。

そこには、確かに美琴と美羽がいた。



Scene5:朝焼けと再訪者の帰路


翌朝、志乃と瑠海は旅館を後にする。


「詠子さんは……今、能登の小さな村に暮らしています。人前には出ませんが、きっと美琴さんたちのこと、ずっと見ていたと思います」


駅まで見送る途中、美琴は静かに尋ねた。


「私たちが、詠子さんに会いに行くことは、迷惑になりますか?」


瑠海は微笑んだ。


「いいえ。むしろ、あの人が“待っていた”のは、今なんだと思います」



Scene6:私たちの名前を呼んだ声


旅館に戻る道すがら、美琴はふと空を見上げた。

雪解けの空に、春の気配が滲んでいる。


そのとき、どこからか聞こえてくる声――


「……美琴、そして、美羽――」


たしかに、それは母の声だった。



― To be continued ―

次回『テルメ金沢殺人事件簿 ―再会と覚醒の冬編―』へ続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ