特別編「祠の記憶と再会の涙 ―そして、私たちは本当の姉妹になる」
■Scene01 【祠の下に眠る記録】
旅館の再建が一段落し、春を迎えたある日。
庭の片隅にある古い祠から、美羽が“埋もれた木箱”を見つけた。
「これ……祖母のものかも」
開けると、中には焼け跡のある戸籍原本の断片と、手書きの手紙が。
「あの子たちは、望まれた命でした――
けれど、守りきれなかった。すべては“白石志乃”の選択でした」
白石志乃――私たちの母の名。
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■Scene02 【出生の真実】
手紙には、26年前の出来事が記されていた。
「双子を産んだあと、私は一人だけを連れて旅館へ戻りました。
もう一人の娘・美羽を、貧しさと世間の目を恐れて……
匿名で施設に預けるしかなかった。
あの夜、テルメ金沢に泊まったとき、帳場にだけは“真実”を残しました」
「じゃあ……私たちが引き裂かれたのは……母の意志だったの?」
「……きっと、苦しかったのよ。でも、今なら分かる気がする。
子どもを守るって、本当に難しいことだから」
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■Scene03 【再訪者の影】
その週末、テルメ金沢をひとりの中年女性が訪ねてきた。
「白石志乃を……昔、裏切った女です。
あなたがたに……謝らせてください」
女性は、志乃の高校時代の親友・河合澄子(かわい・すみこ/50代後半)。
過去に不倫相手との関係をリークし、志乃の名誉と家庭を壊した張本人だった。
「あの時、志乃さんは“自分の罪”として双子を遠ざけたんです。
美羽さんが施設にいたことも……私の口からは、言えませんでした」
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■Scene04 【再びの旅館危機】
だがその直後、テルメ金沢に「建設会社との契約不履行」の知らせが届く。
中庭改修に使われた資材に耐久性の問題が見つかり、一部解体が必要と判明。
「まさかまた……今度こそ、旅館が潰れる……?」
銀行との再融資交渉。常連客からの応援。スタッフの無給勤務の申し出――
そのなかで、美羽は静かに立ち上がる。
「私、あの旅館のために……本名で、署名します」
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■Scene05 【姉妹の再出発】
経営再建の支援金を受ける条件として、“旅館の正当な相続関係”が求められた。
私は、美羽を“共同女将”として正式に登記する。
「私たち、もう“血の繋がり”だけじゃなくて――
旅館という場所でも、姉妹になれたんだね」
「うん。今度こそ、ずっと一緒にいられる気がするよ」
美琴と美羽は、並んで帳場に立つ。
灯が灯る夜、旅館の入口にはこんな言葉が掲げられていた。
『ふたつの灯が、ここで一つに。
おかえりなさい。私たちの家へ』