第17話「旅館に現れた“もう一人の美琴”と双子の影 ―瓜二つの顔、失われた戸籍、そして明かされる血の秘密― 」
■Scene01 【チェックイン時の混乱】
午後3時――テルメ金沢の帳場にて。
「本日ご予約の“白石美琴”様ですね?」とスタッフが声をかけた。
「はい。こちらが身分証です」
――そこにいたのは、まぎれもなく“私と同じ顔”をした女。
「……えっ?」
私が帳場に戻ると、スタッフとその女性が互いに困惑していた。
「もしかして……双子ですか?」
「……いえ、私には双子の姉妹なんて――」
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■Scene02 【戸籍の“空白”】
その女は白石 美羽(しらいし・みう/26歳)。
出された保険証も身分証も有効で、住所も東京・板橋区にあるアパート。
彼女の話によると――
「私、小さい頃に施設に預けられて……
親の記憶も、名前の由来も知らないんです。
でも、“白石美琴”って名前だけは、昔からなぜか知ってて――
ずっと探してたんです、もう一人の“自分”を」
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■Scene03 【祖母の遺した“秘密の帳面”】
私は動揺しながらも、かつて祖母が使っていた古い旅館の帳面を確認する。
そこに残っていたのは、26年前――
【宿泊記録:白石志乃/女児2名/匿名での一泊】
【備考:女児のうち一名、翌朝“保護者不明のまま置き去り”】
名前は伏せられていたが、
女の子のひとりは「美羽」という名札を首にかけていたと記されていた。
私は震える手で、帳面を閉じた。
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■Scene04 【“血縁”のすれ違い】
DNA鑑定の結果――
私たちは“二卵性双生児”であり、間違いなく姉妹であることが判明した。
しかし、美羽は涙ながらに語った。
「でも私は……“家族になんてなれない”。
だって、美琴さんは愛されて育った。私は施設と転々とする養家の中で、名前だけを握りしめて生きてきた」
私は、言葉を飲み込んだ。
私の知らないところで、もう一人の“私”が、孤独と共に育ってきたことを。
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■Scene05 【宿帳に並ぶ“ふたつの名前”】
私は旅館の宿帳に、ふたりの名前を書き込んだ。
白石 美琴
白石 美羽
「せめて、今からでも。私たち、少しずつ――“双子”になっていけないかな」
「……こんな温かい旅館を継いでるあなたに、言ってもらえるのなら……
私、“帰ってきてもいいのかな」」
私たちは、はじめて互いの手を握り合った。
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■Scene06 【旅館に吹く、新しい風】
その夜。旅館では新しい客を迎え、いつものように穏やかな時が流れていた。
帳場では、双子の姉妹が並んで立ち、笑顔を交わす。
「ねえ、もし“二人分の女将”がいたら、最強かもね」
「それ、きっと祖母が聞いたら呆れ返るわ」
でも――
この旅館には、まだまだ温かい“居場所”がある。
たとえ過去がどんなに複雑でも、今日を生きることは誰にでも許されている。