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第16話 「環水公園で消えた音楽家 ―湖面に響いた最後の旋律― 」


■Scene01 【富山・環水公園 野外劇場】


休日、美琴・悠真・娘の茜とともに、富山・環水公園へ。

今夜は人気音楽グループ【ZoneSTARZ】の野外ライブ。会場は多くの観客で賑わっていた。


「ここ、すごいね……水辺があって、建物も美術館みたい」


「金沢とはまた違った静けさがあるな」


茜の手を引きながら、ライトアップされた運河の周りを歩いていた時だった。

ふと、舞台袖の機材室からざわついた声が上がった。


「えっ……いない!? ピアニストの柊くんが消えたの!? 開演30分前なのに……!」



■Scene02 【消えた天才ピアニスト】


失踪したのは、世界的に有名な鍵盤者(ピアニスト)の柊 奏(ひいらぎ・かなで/27歳)。

過去にコンクールを総なめにし、天才とも称されていた青年だった。


控室には彼のスマホと譜面のみが残されていた。


「置き手紙も、外出記録もなし……誘拐か、失踪か……」


悠真とともに調査を進めると、直前に会場付近で不審な音響機材車が一時停車していたことが判明。


しかしその車はライブ設営スタッフのものではなかった。


「音楽と関係ない“誰か”が、何かを持ち込んだ可能性がある」



■Scene03 【湖に響いた“無人演奏”】


ライブは予定どおり開演。

突然、舞台袖からひとりでに動き出すピアノ。


そしてスピーカーから流れるのは――神堂奏の録音された演奏。

演奏は完璧だった。だがその裏で、娘の茜がぽつりとつぶやく。


「さっき、湖の向こうで……だれか、弾いてたよ」


その言葉に、美琴と悠真の背筋が凍る。

――音が流れていたのは“録音”ではなく、“生演奏”だったのか?


悠真が無線で指示を飛ばし、湖の対岸を捜索。

そこにあったのは、小さな浮島のような木製の舞台。

そしてその中央に、気を失った奏がうつ伏せで倒れていた。



■Scene04 【襲撃と“最後の演奏”】


奏の証言――


「目隠しされて、運ばれて……

目を開けたら、ピアノと、カメラがあって、“弾け”って言われた」


犯人は、かつて神堂奏に音楽を“奪われた”と感じていた元ピアニスト・水谷楓(みずたに・かえで/29歳)。

幼少期から天才と比較され、ついに精神を病んでしまった。


「あなたは、全部を持っていった。賞も、評価も、人の耳も。

私は、あなたの“最後の演奏”を、誰よりも近くで聞きたかったのよ」


湖の上で、孤独と復讐心を奏でさせた女――

しかし、彼女の行動を“ただの犯罪”と片付けきれない美琴の胸に、言い知れぬ痛みが残る。



■Scene05 【水辺に佇む夜】


事件後――

環水公園のライトが水面に反射し、さざ波のように揺れる。


「音楽って、人を救うけど……時に、呪うこともあるんだね」


「でも、救われた人がいる限り、音は“罪”にはならない」


悠真の言葉に、美琴はうなずいた。


茜は小さく手を振りながら、

「あの人、もう弾けないのかな……」と。


「また、奏でられるよ。今度は、ちゃんと自由にね」


ふたりは娘の手を握り、金沢へと帰っていく――

その背中には、演奏よりも優しい“家族の調べ”が流れていた。


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