第15話「娘の七五三と“消えた千歳飴”の秘密 ―家族の祝いの裏で起きた、小さな事件と優しい嘘―」
■Scene01 祝いの朝
秋晴れの朝――
私たちは家族そろって、金沢・尾山神社へと向かっていた。
今日は、娘・茜の七五三。もうすっかり、口達者で、お洒落好きな5歳だ。
「ママ、この着物可愛い? パパ、写真いっぱい撮ってね!」
悠真はスーツに身を包み、カメラを手にして笑っていた。
「もちろん。ママより可愛く撮れたら……ごめんね?」
「もう、そういうとこは父親似よね」
私たち家族は、尾山神社の緑の中で手を繋ぎ、写真を撮り合い、祝詞を受け――
お守りと、千歳飴を貰って帰路に着いた。
しかし――その千歳飴が、“家に帰るまでに消えていた”。
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■Scene02 小さな騒ぎ
「ない! 千歳飴がないの!」
茜は涙目になりながら着物の袖を握る。
「わたし、ちゃんと持ってたのに……落としたのかな……?」
私は慌てて尾山神社に戻り、スタッフに問い合わせた。
しかし届いておらず、道端にも落ちていない。
――まさか、盗難?
そんな不安がよぎったが、悠真は静かに呟いた。
「ねえ、美琴……あの飴、本当に“消えた”と思う?」
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■Scene03 “見えない手”の記憶
その夜、私はあることを思い出した。
神社の境内で、ひとりでベンチに座っていた小さな女の子。
手には古びた人形、着物も薄く、母親の姿は見えなかった。
「ねえ、ママは?」
「……いない。おやつもない」
それを聞いた茜が、私に内緒で千歳飴をそっと手渡していた――
「あげる。今日だけは、神様も見逃してくれるから」
ああ、そうだ。
“なくなった”んじゃない。
“誰かに、あげた”んだ。
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■Scene04 やさしい嘘
翌朝、茜の枕元に新しい千歳飴が置かれていた。
包装紙には、私と悠真の手書きでこう書かれていた。
「これは“神様”から、よくがんばった子へ。
でも昨日の優しさ、神様はちゃんと見てました。」
茜は少しだけ照れながら、飴をかじって言った。
「うん……昨日の子、笑ってくれたから、私もう一個もらえたんだね!」
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■Scene05 節目と、未来へ
この日を境に、茜は少しだけお姉さんらしくなった気がした。
「来年はランドセルか……あっという間だね」
「でもさ、俺たちも、“親”になって、少しずつ成長してんのかも」
「うん。そう思う。旅館も、家族も、“育てる”っていう意味じゃ、同じかもしれないね」
夕暮れの中、旅館に戻る私たちの背中を、あたたかい風が包んでいた。