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第12話「金沢駅・鼓門の下に置かれた棺 ―観光地に眠る“生きた遺体”」


■Scene01 駅前に置かれた“棺”


ある朝、金沢駅・鼓門の真下に、奇妙な長方形の木箱が置かれていた。

観光客が行き交う中、警備員が不審に思い通報。すぐに駅は一時封鎖された。


駆けつけた警察の報告に、美琴の背筋は凍りついた。


「箱の中から……微かに人の呼吸音がする」


木箱は装飾のない、ただの“簡易棺”。

中から発見されたのは、意識のない若い女性。呼吸はあるが、薬物で眠らされていた。


「遺体じゃない……でも、生きたまま棺に入れたってことは――」


悠真は眉をひそめた。


「これは、“警告”だ」



■Scene02 被害者と“身元不詳”


女性の身元は判明しなかった。

財布も、携帯も、衣服のタグすら切られていた。


ただし、左手首には**“H”のイニシャルが刻まれたブレスレット**。


「彼女、助けを呼んでた……でも声を出せなかっただけ」


美琴はそっと被害者の顔を撫でる。

手首には、何かを掴み続けていた痕――爪が食い込んだ跡があった。


「この子、棺の中で……必死に闘ってた」



■Scene03 “記録”から浮かぶ顔


駅前の防犯カメラを解析した結果、木箱を運んだのは作業服を着た30代の男性。

手早く作業車から箱を下ろし、ものの1分で去っていた。


映像から判明したのは、運搬に使われた車が市内の劇団運営トラックであること。

関係者を洗うと、劇団「エンノート」の関係者である**花咲怜士(はなさき・れいじ/34歳)**が浮かび上がる。


「彼、行方不明になってる。数日前から音信不通」


劇団が過去に上演していた演目には――

**「棺に囚われた女優」**という舞台作品があった。



■Scene04 眠らされた“舞台女優”


被害者の女性は、花咲の元恋人であり、元主演女優の**原口春菜(はらぐち・はるな/28歳)**と判明。


ふたりは数年前に破局していたが、最近、再演を機に再び連絡を取っていたという。


そして――

現場に残されたブレスレットの裏には、小さく刻まれた文字があった。


“私は舞台から逃げない。あなたの嘘より、私の役を守りたい。”


「この言葉……遺言じゃない。“生きるためのセリフ”だわ」


美琴は確信した。

これは、“愛”なんかじゃない。“支配”だ。



■Scene05 暴走した演出家


数日後、市内のアパートに潜伏していた花咲怜士が確保された。


「彼女は……舞台に戻るつもりがなかった。

 でも、あの役は……“彼女にしかできない”んだ」


彼は、“棺に入れられた花嫁”という演出を現実で再現しようとしていた。

春菜を“永遠に舞台の中に留める”という歪んだ執着。

それが、金沢の観光地に棺を置くという“最悪の演出”に繋がった。



■Scene06 帰り道、灯りの下で


夜、金沢駅の鼓門を見上げながら、美琴は娘の手を引いて帰る。


「大丈夫だった?」


「うん……駅って、怖いとこじゃないよね?」


「ううん。むしろ、“始まりの場所”なんだと思う」


隣で悠真が微笑む。


「君がいたから、事件じゃなくて“人の叫び”に気づけたよ」


「ありがとう。でも、次の事件こそ……起きなければいいなって、ちょっとだけ願ってる」


鼓門の下で、夜風が吹いた。

その風が“終わり”ではなく、“再出発”であることを願いながら。


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