特別編 「星と風と、そして少しの謎 ―環水公園にて」
■Scene01 環水の風、舞台に響く声
事件が解決した数日後――
私たち夫婦は、富山・環水公園へと足を運んでいた。
目的は、娘が今一番夢中になっているグループ、**【ZoneSTARZ】**の野外LIVE。
公園の夜は風が心地よくて、星が水面に映って揺れている。
「すごいな……本当に満員だ」
「富山まで来た甲斐があったね」
娘のために、と言いながら――実は私も、少しワクワクしていた。
ステージには、キラキラの衣装を纏った彼らが登場し、歓声が夜空に吸い込まれていった。
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■Scene02 視線の先に見えたもの
ライブが中盤に差しかかる頃。
私はふと、観客の波の向こう側、警備エリアの脇で“見覚えのある後ろ姿”を見つけた。
「……あれって、凛奈ちゃん?」
髪を後ろで結び、キャップを深くかぶったシルエット。
その彼女が、富山県警の警察官と何やら親しげに話している。
笑いながら、時折真剣な顔でうなずく凛奈。
小さな白い包み――たぶんキムチ入りの容器――を警官に渡していた。
「また何か、見ちゃったのかもね」
隣に立つ悠真に小声で言うと、彼は小さく笑った。
「凛奈さんなら、“事件”を見なくても、“人の心”が見えるんだろうな」
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■Scene03 手を引いて、戻る場所へ
けれど、私はそれ以上気にしなかった。
隣にいる人の手を握って、また前を向いた。
「さ、ライブに集中しよう。今日は、事件じゃなくて“音”を記憶に残す日だから」
「了解、女将さん」
悠真がにやりと笑い返す。
私はその笑顔を見ながら、少しだけ力を込めて彼の手を引いた。
ステージから放たれる光と音、
それを見上げる娘の後ろ姿。
そして、遠くに立つ凛奈の背中。
事件の余韻はもうない。
そこにあるのは、“いま”を大切にする者たちの静かな夜だった。