特別編 「湯の夜、甘い灯りと朝の誓い ―そして輪島へ」
■Scene01 ぬくもりの湯と、ふたりの時間
「たまには……一緒に、入ろうか」
そう言って、湯殿への戸をそっと開けたのは美琴だった。
今夜は、娘を母に預けてのほんの少しの“夫婦だけの時間”。
湯気の立ち込める檜風呂に、2人は並んで肩を沈める。
「はぁ……生き返る……」
「……贅沢だな。君とこうしてるだけで」
「お風呂だけで満足?」
美琴が、いたずらっぽく目を細める。
それに悠真は応えるように、そっと唇を近づけた。
「満足だけど……まだ、足りない」
唇と唇が触れ、肌に落ちる湯の雫さえ熱を帯びるように感じる。
美琴が小さく、吐息を漏らす。
「んっ……ぁ……」
唇は熱く、深く重なり、浴槽の水音さえかき消されるほど。
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■Scene02 甘く、静かに、そして確かに
脱衣所の柔らかな光の下で、バスタオルを滑らせると、互いの素肌があらわになる。
「……ずっとこうしたかった。ちゃんと、抱きたかった」
「私も。……あなたの全部が、恋しいの」
そっと腕が回り、温もりが重なる。
掛け布団の中、肌と肌の境界がほどけてゆく。
痛みも悲しみも、過去も未来も――
すべて忘れるように、2人は互いを確かめ合った。
何度も、重なり、揺れて、囁き、キスを交わしながら――
「悠真……好き……ずっと、ずっと……」
「美琴……もう離さない。何があっても」
やがて、静かに寝息が重なり合い、灯りが落ちていった。
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■Scene03 夜明け、そして予感
明け方――
静かな震える音が、悠真の携帯に届く。
(着信:石川県警察・捜査一課)
「……ああ、俺だ。……輪島の朝市で? ああ、すぐ行く」
寝起きのまま髪を梳かし、玄関へ向かおうとした悠真の手を、美琴がそっと掴んだ。
「行くんでしょう?……だったら、私も一緒に行く」
「危ないかもしれない」
「それでも、今の私は――ただの女将じゃない。事件の中に“人の想い”があるなら、それを見届けたいの」
少しの沈黙。
そして、悠真は小さく頷いた。
「……わかった。じゃあ、行こう。ふたりで」
玄関先、美琴が手を伸ばす。
「いってらっしゃいのキス、まだでしょ?」
「……それ、帰ってからも欲しいんだけどな」
笑いながらも、2人は深く、長くキスを交わす。
夜の続きを、朝にも――互いの体温を分け合うように。