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第5話 「加賀友禅の工房で起きた染料毒殺事件」 ― 美しき模様に隠された復讐の糸 ―


■Scene01 加賀の伝統に触れる一日


「お母さん、きれいなお花の模様だね!」


「うん、これは“桜流水文様”。春の訪れを表してるのよ」


美琴は娘の手を引いて、加賀友禅の染色体験へ訪れていた。

悠真もたまたま休日で、久しぶりの家族3人での小旅行。


場所は金沢市内の加賀友禅工房「雲花庵うんかあん」。

長年続く名門工房で、今日から期間限定の観光体験が始まっていた。


だが、染色師のひとり――**早川貴志(はやかわ・たかし/42歳)**が昼食後に倒れ、病院で死亡。

原因は、染料に混入された“有機化合物による中毒死”。


「……染料で、殺された?」


悠真の顔が引き締まる。



■Scene02 封じられた色と、ふたりの過去


雲花庵では、代々“色”にちなんだ家系名を受け継ぐ。


館主:小嶋桔梗(こじま・ききょう/60代)

その娘:小嶋茜(あかね/35歳・主任染師)

染色師:早川貴志(亡くなった男)

見習い職人:藤沢晴太(ふじさわ・せいた/28歳)


調査が進む中、工房では口裏を合わせたように皆が“貴志さんは何も問題なかった”と語る。


だが、美琴は目撃していた。

開店前、廊下の奥で、茜が早川に向かって低い声で何かを言い放つ姿を。


「……二度と、あのことを蒸し返すつもりなら、黙っていないわよ」



■Scene03 布の裏に書かれた「ことば」


茜が作業中に使用していた古い型染めの布。

その裏に、乾いた染料で浮かび上がる文字があった。


「わたしは知っている。五年前の事故は、おまえの仕組んだことだ」


五年前――工房で若手職人が一人、染料の誤操作で火傷を負い、退職していた。

その後、誰も語らなくなった“あの事故”。


「貴志さんは……あの事件の真相を暴こうとしていたんだ」


だが、美琴はそれだけでは納得できなかった。

なぜ、“染料に毒を入れる”という方法を選んだのか――



■Scene04 事件の影、そして真犯人


真相は、見習い職人・藤沢晴太の証言で明らかになる。


「彼は、僕の兄なんです。あの事故で手に障害が残って……でも、真相は揉み消された」


早川貴志は、自分の兄が不遇にされた事実を知り、再調査を始めていた。

だが、その動きを恐れたのは――茜ではなく、工房の館主・小嶋桔梗本人だった。


「この工房は、“無事故”で通してきたの。表に出るわけにはいかない」


毒を染料に混ぜたのは桔梗。

染色という誇りに傷がつくことを恐れ、“作品”の名の下に人命を奪った。



■Scene05 美琴の祈りと、悠真の決断


「……芸術って、人の命より重いものなんですか?」


美琴の問いに、桔梗は何も答えなかった。


「色が人を救うこともある。でも、色が人を殺すことは絶対に許されない」


悠真の言葉に、工房の静けさが凍りついた。


事件は逮捕により解決し、藤沢晴太は兄の名誉を取り戻すべく、新しい工房を設立する決意を固める。



■Scene06 帰路と、ふたりの誓い


帰り道、娘がつぶやく。


「パパ、ママ……わたし、大きくなったらお着物つくる人になる!」


「……うれしいな。でもね、それにはちゃんと、人の気持ちも学ばなきゃだめよ」


「うんっ!」


家族3人の手が重なった瞬間、美琴はふと自分の手の甲に、染料の赤がうっすらと残っているのを見つけた。


それは――事件の痕跡ではなく、“人を守るために動いた証”。


「あなたとなら、どんな色でも塗り替えられる気がする」


「俺も。家族って、そういうもんだろ?」


そして次に待ち受けるのは、“命の色”を巡る新たな季節だった――


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