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第7話「型紙と血の継承者」



■Scene 1 —— 着物の“裏”にあるもの


朝、金沢市・犀川沿い。


美琴は北園千尋と再び面会し、今後の行動に注意するよう警告した。


「犯人は“血の継承”をなぞってるわ。あなたの家系が象徴する“染め”と、瀬川家の“墨”が、次の標的」


「……私は、もう逃げません。あの事件で何人も傷ついた。これ以上は、止めないと」


千尋のまなざしに、確かな覚悟があった。


「私、1週間前に会った人がいます。“美和先生のことを語ってた”……“染めの誇りは血で仕上げる”って」


美琴は反応を止めた。


「その人の名前は?」


「名乗りませんでした。でも、特徴が……“染め屋ではなく、能登の刺繍工房出身だと」


(能登……!?)


美琴の頭に、ある名前が浮かんだ。



■Scene 2 —— 忘れられた弟子


「糀谷美和が刑務所に入る前、“もう一人”弟子がいた」


そう証言したのは、染色協会の元職人・吉田忠。

年配の吉田は、資料室の古い会員名簿を取り出して、1枚の写真を見せた。


赤羽璃子あかば・りこ。能登の刺繍工房の娘だった。美和に傾倒し、技術より“演出”に執着した異端者だったよ」


写真には、白い作務衣を着た細身の若い女性。整った顔立ちに、どこか“虚ろな冷たさ”があった。


「璃子は“美を捧げることで人は浄化される”と語っていた。狂気と紙一重だったな……」


「彼女が今、どこに?」


「……“姿を消した”。10年以上前だ。だが一部では、“金沢に戻った”って噂がある」


美琴は確信する。


「赤羽璃子が、生きている。そして“糀谷美和の意志”を継いでいる」



■Scene 3 —— 血染めの演出、動き出す罠


夜。金沢市・卯辰山の山裾。


ミス加賀友禅の新衣装を撮影する予定だったスタジオが、突如停電。

備品室にあった着物の一部が盗まれ、残されたのは——


「“加賀紅型”に似せた、血の染みのある反物」


それは30年前の非公開展示品と酷似していた。


美琴が現場に駆けつけたとき、監視カメラには白い着物をまとった人物が映っていた。

顔は見えないが、細身の輪郭と、手元の仕草は——赤羽璃子を連想させた。


そして、美琴のスマートフォンに届いた一通のメッセージ。


「次の“型紙”は、あなた。探偵という“誇り”を染めてあげる」



「私自身が標的になった……!」



■Scene 4 —— 亡霊に導かれた真相


その夜。

美琴はテルメ金沢の自室で、朴凛奈の事件記録を改めて読み返していた。


——あの時、凛奈は美の暴走を“芸術への妄執”と呼んだ。

今の犯人もまた、同じ原理を抱えながら、**より演出重視の“劇場型”**に変貌している。


「璃子の動機は、“継承された型紙”の完成。“美和の作品を、自分の手で仕上げる”こと」



そして、30年前に発生した最初の“未解決脅迫事件”のコピーが、美琴の手元にあった。


そこにはこう記されていた。


「——この地の美は、血で仕立てよ。紅、黒、白。誇りを抱く者たちよ、静かに眠れ」


これは“染める手順”と、“布に重ねる意味”を象徴している。

美琴は静かに立ち上がった。


「璃子は、最後に“完成品”を作るつもりよ。……北園千尋と瀬川瑠璃、二人を並べて」



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