特別編 「小さな命と、ふたりの朝」―妊娠発覚編〜旅館での育児編―
■Scene01 眠れない夜と、ひとつの違和感
「最近、少し体調が変で……」
ある晩、帳場の後片付けを終えた美琴がつぶやく。
少しずつ感じていた微熱、食の好みの変化、そして妙な眠気――
数日後、思い切って産婦人科へ。
結果は――陽性
「……本当に?」
静かな診察室の帰り道、美琴の手が震えた。
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■Scene02 夫へ伝える日
夜、旅館の奥の一室。
風呂上がりの悠真が髪を拭きながら現れると、美琴はそっと封筒を手渡した。
中には、エコー写真と短い手紙。
“先輩へ。
新しい命が、ふたりの間に生まれました。
今度は、3人で歩いていこうね。”
悠真は、写真を握りしめたまましばらく言葉を失った。
そして、静かに彼女を抱き寄せる。
「ありがとう……美琴。本当にありがとう」
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■Scene03 育児と旅館と、夫婦の毎日
それからの毎日は、嵐のようだった。
朝は帳場の帳簿と赤ちゃんのミルク。
昼は客の出迎えとおむつ替え。
夜は子どもを抱いたまま、夫と交代で夕食の片付け。
だけど――
「ふふ、よく笑う子だね」
「君の顔にそっくりだ」
日々の喧騒の中にも、ふたりは確かに“家族”になっていった。
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■Scene04 ある夜、ふたりの会話
「女将って、子育てと一緒だね。大変だけど、全部見届けたくなる」
「じゃあ刑事は?」
「んー、嫁と子ども守るための、盾……かな」
「……なら、しっかりしてよね」
微笑みとキスのあと、3人分の布団が敷かれた部屋に、安らかな寝息が響いていた。