転生ヒロインと転生聖女が出会ったら
名前無し。
ゆるゆる設定の異世界転生お話です。
とある国の、とある孤児院。
ここにでは、とある国の保護者がいない乳幼児を集めて育てていました。
孤児院には小さな神殿が併設され、そこのシスターが子供達の世話を行い、神殿への寄付などが孤児院の生活を支えていました。
孤児院には、庭で元気に走りまわるやんちゃな子もいれば、寄付された本を読みふけ、下の子に文字書きを教える子もいて、たいそう賑やかに日々を過ごしていました。
ある日、孤児院に新しい女の子がやってきました。
ピンク色の髪の毛、くるくると好奇心に満ちた青い瞳、大人びた言葉遣いなど、他の子供とは何か違う……そんな子供でした。
同じように、孤児院には、黒髪黒目で、大人びた女の子がいました。
まだ幼いと言われる年頃なのに、シスターの手助けを進んで行い、下の子の面倒を見て、そして誰よりも真剣に神に祈る子供でした。
そんな二人が出会って、視線を交わすと……。
「あ!聖女ちゃん?!」
「え……ヒロインちゃん?」
シスター達や、他の子供達にはよく分からない言葉でお互いを認め合うと、その日から、よく二人だけで過ごすことが増えました。
「……ねえ、聖女ちゃん。来年でしょ、私達が王子に見つかるの」
「そうですね……」
「あー!もう。私はさ、今の人生悪くないなと思ってるのよ。それなのに、王子や、貴族達に絡まれて、婚約者達から嫉妬されて……」
「ええ。私も、大神殿に入れられて、もう外の世界とは関われなくなります……」
ヒロインちゃんと聖女ちゃんは、『異世界転生』して、この国に生まれた子供でした。
そして、転生前の現代日本で流行っていた、とある乙女ゲームの中であることも、二人の記憶をかき集めてわかったことでした。
その乙女ゲームの結末は
『ヒロインちゃんは、複数の男性から求婚され誰か一人を選び幸せになる』
『聖女ちゃんは、国一番の力を持つ大聖女として大神殿に大切に守られ、神に祈りを捧げ国を守り続ける』
というもの。
「そんな人生、望んでないのにねー。私の夢はね、孤児院を出る年になったら、町で働いて、好きな人と結婚して家庭を持つんだ」
転生前の人生を、まだ学生の頃に終えたヒロインちゃんは、ごく普通の人生を望んでいました。
「私は……神様に祈ることは嫌いじゃないけど、ずっと神殿に縛られるのは、嫌……。それに、ここで子供達の相手をするのが楽しいの」
転生前の人生では、家庭を持ったものの、束縛する夫との間に子供ができず、同居する義母に嫌味を言われ続けたので、今度の人生は、ある程度の自由と子供の相手をできる今が幸せだと感じていました。
なので、乙女ゲームのシナリオ通りにはなりたくない!ということで、二人の意見は一致していました。
◇
それから、一年後。
「あら、殿下。どうかなされました?」
「いや……なんだか、ふと、町に行って誰かに会わねばならない気がしたのだが……」
「まあ……。もしかして、私の他に、誰か気になる方でもいらっしゃるのかしら?」
「まさか!君以外を気にかけるだなんて、俺が愛してるのは君だけだよ」
王子は、婚約者とそんな会話をしていました。
婚約者は、王子との会話をしながら、不思議に思いました。
『あれ?確か、そろそろ、ヒロインちゃんと出会ったり、聖女ちゃんの出番があったはずなんだけど…そんな気配ない……わね?』
婚約者も、元現代日本から『異世界転生』してきた転生者で、乙女ゲームの『悪役令嬢』でした。
婚約者は、王子のことを大好きで、そして乙女ゲームの結末を知っていたので、ヒロインちゃん達との出会いを気にしていましたが、なぜか『イベント』が起こらず、そのまま、婚約者から夫婦へと関係を進め、王太子夫妻として国の為によく働きました。
◇
「っぷはー!仕事の後の一杯はおいしぃ〜!!」
「お、いい飲みっぷりだな、俺と一緒に飲まねえか?」
「え?……わ、すっごいタイプ!」
「たいぷ??なんだそりゃ、もう酔ったのか?」
「ううん、まだまだ!一緒に飲みましょう!」
成長して、孤児院を出て働き始めたヒロインちゃんは、仕事終わりに飲んでいるところ、店にいた客の一人に誘われ、そして、半年後に結婚をしました。
◇
「シスター!あのねあのね!」
「ねえねえ、私の絵も見て!」
ヒロインちゃんと聖女ちゃんが育った孤児院では、若いシスターが子供達に大人気でした。
「あらあら、順番ね。どうしたの?」
聖女ちゃんは、孤児院のお世話係として、シスター見習いになり、これまでと変わらない生活を楽しんでいました。
ただ、それも、あと半年だけ。
神殿にいつも足を運んでくれる、とある貴族の後妻として迎えられることが決まったからです。
貴族といっても、もう家督は子供達に譲り、話し相手やお茶の相手としての役割を求められるだけで、これまでのように孤児院へ行くことも自由にしていいと、聖女ちゃんにとって求めていた条件での申し出だったのです。
◇
「なんだかさ、最近思い出したんだけど、昔、町に行かないと…と思っていたことがあっただろう?」
「ええ。まだ婚約中の時でしたわね」
「あれは、きっと、俺にとっての試練だったんじゃないかなと思ってさ」
「まあ?それは、なぜです?」
「あの時、もし、町に行っていたら、今こうして君と……子供達と過ごす幸せな日々は無かったんじゃないかなって、そう思ったら凄く怖くてさ。そういえばその頃、『運命の人に出会う』って夢を見た気がするけど……」
「『運命の人』……ですか?」
「ああ、でもさ、その頃には、俺は君に出会ってるし、婚約もしてるし、君以外の人と出会う意味なんてないやと思って……あれ?どうしたの?」
「べ、別になんでもありませんわ!」
「ふーん?そんなに真っ赤になってるのに?君は昔から可愛いよね」
「……!」
悪役令嬢と、転生ヒロインに夢中になった王子様という『シナリオ』は、もう完全に無かったことになっていました。
◇
王子様との将来を望まなかったヒロインちゃん。
大聖女としての名誉を望まなかった聖女ちゃん。
悪役令嬢にならず幼い頃からの婚約を実らせた王太子妃。
異世界転生した元現代日本の女性達は、『乙女ゲーム』より、自分の人生を選び、幸せになりましたとさ。
おしまい。
乙女ゲームの世界に転生したから、そのキャラで楽しむのもいいけど、せっかくなら自分の人生歩んでもいいよねと思って書いてみました。