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変わりゆく世界と拳の記憶  作者: Uta
灰の街にて
9/21

訓練の日々 ― 汗と誓い ―

朝の空気は冷え込んでいた。

訓練場には息を切らす若者たちの声が響き、砂煙が立ち上る。

石造りの広場の中央で、教官リズが吠えた。


「おらぁ! 止まるな! 命は止まったら終わりだ、分かったか!」


掛け声が響く中、ダイスケたち4人も列の中で汗を流していた。

まだ体は鈍く、筋肉痛が抜けきらない。それでも動く。

誰もが生き残るために。


◇ナイナの試行錯誤


魔法の訓練時間。

ナイナは炎の魔法に苦戦していた。


掌に力を集め、詠唱ではなく意識で“熱”を想像する。

だが指先に浮かぶ火花は、ほんの一瞬で消えた。


「くっ……!」


彼女は歯を噛む。周囲の空気がわずかに焦げた匂いを帯びる。

それでも火は、すぐにしおれるように消えていく。


「理屈は分かってるのに。……熱って、こんなに繊細なものだったのね。」


焦燥と理性のはざまで、彼女は己の感覚を確かめていた。

――それが後の、“魔法理論”を支える最初の芽だった。


◇オリーブの癒し


少し離れた場所で、オリーブが静かに膝をつく。

切り株の上に手を置き、祈るように目を閉じた。


「もう一度、息吹を……戻ってきて。」


光が淡く揺らめき、枯れた切り株の隙間から、小さな緑の芽が顔を出す。

周囲が息を呑む。オリーブは驚いたように微笑んだ。


「癒しって……人だけじゃないのね。」


その光はあたたかく、見ているだけで胸の奥に灯がともるようだった。


◇ダイスケの“経験”


ダイスケは剣術の訓練に回された。

正直、刃物を振るうのは初めてだったが、構えた瞬間に気づく。


(……体が、流れを読んでる)


相手が踏み込み――刃を振るう。

その瞬間、ダイスケの体は自然に動いた。

重心をずらし、剣を受け流し、逆の足で踏み込み――相手の腕ごと掴んで体を崩す。


「うわっ!」

相手が尻もちをつく。


「……こいつ、切り落としのあとノーガードすぎるんだよ」

ダイスケはぼそりと呟いた。


教官が目を丸くする。

「おい、今のは……素手か?!」


「え、あ、すみません! つい!」


「ははっ、いいじゃねえか! 剣士より速い反撃だよ!」


周りから笑いが起こる。

ダイスケは頬を掻きながらも、どこか誇らしかった。

(もしかしたら俺……“剣”じゃなくても戦えるかもな)


◇マイクの“盾”


マイクは苦戦していた。剣を振っても、腕が震え、軌道がぶれる。

何度も撃ち込まれ、押し込まれ、それでも倒れない。


その理由は――盾だった。


金属の打撃音が響く。

教官の木剣を、マイクは小さな盾で正確に受け流す。

角度も重心も、まるで身体の一部のように自然だ。


「おお……お前は、防御のセンスがあるな!」

教官が笑うと、仲間たちも感嘆の声をあげた。


ナイナが小声で言う。「攻めは弱いけど、守りの天才ね。」

オリーブが頷く。「守りたいものがある人は、強いです。」


マイクは照れながらも、誇らしげに笑った。


◇午後 ― 鍛冶屋にて


午後はギルドからの雑務。

今日は鍛冶屋へ素材を届け、訓練用の防具を受け取る任務だった。

熱気と鉄の匂い、カンカンと響く金槌の音。

ダイスケたちは汗だくで荷を下ろす。


「これが鉄かぁ……重っ。」

マイクが呟く。ナイナは興味津々に溶鉱炉を覗き込む。


「こうして剣や盾が作られてるのね……まるで生き物の心臓みたい。」


イェンが工房の奥の薙刀をじっと見つめていた。

「……それ、欲しいのか?」

ダイスケが尋ねると、イェンは振り向かずに答える。

「うん、関羽様のように振るうある。でも、わたしの体じゃまだ無理ある。」

ダイスケはイェンの細い体と大きい薙刀を見比べて何にもいえないでいた。


本人も分かっている。

自分の体ではこれを扱えないことも。

それでも…

それでもイェンは薙刀から目を離さない。

「わたし、強くなりたいある。もう騙されない。もう負けない。」


その目には、以前の軽さはなかった。

ダイスケはその横顔を見つめながら、小さく頷く。

「……分かったよ。

  なら、夜、一緒に稽古しようか」


イェンの目が一瞬まん丸になり、やがてゆっくりと笑った。


「ダイスケ、優しいあるな。」


「いや、監視だよ。倒れられたら困る。」


「それでも、嬉しいある。」

ダイスケはイェンとその奥で防具のコーナーで鎧から眼を離さないでいるマイクを見て、

ひそかに頭の中の電卓をはじくのだった。

(宿舎はしばらくただで住める。食費を抑えれば、なんとか防具代くらいは……)

(オリーブがいるから回復薬も最小限で済む。問題は――俺の装備、だな。)


財布の中身を思い出し、ため息を飲み込む。

それでも、不思議と心は軽かった。

――この仲間たちのために、動けると思えたから。

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