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変わりゆく世界と拳の記憶  作者: Uta
アリウスの誓い
18/21

草の波、血の匂い(後編)

風は冷たいが、空気は昨日より澄んでいる。

そんな朝にしては、どこか静かすぎた。


「確認だけど、今日も川沿いを歩いて薬草を探す。

 もし魔物に遭遇したら、無理せず撃退。討伐は目的じゃないからな」


 ダイスケは地図を広げ、みんなの前で確認する。

 川の流れを示す青い線と、昨日見つけた群生地の印。

 小さな丸が新しい探索範囲を示していた。


「アタシは金になるなら、どこだっていいアル!」

 イェンが腰の薙刀を軽く叩き、ニヤリと笑う。

 ナイナも苦笑いを浮かべながら頷いた。

「ま、収穫できればいいわね。天気も良いし」

「怪我だけは気をつけろよ」

 マイクが言うと、オリーブがそっと手を合わせた。

「今日も誰も傷つきませんように……」


 彼女の祈りの声とともに、僕たちは出発した。


* * *


 ヴェルナ平原を抜け、川沿いに出た。

 水面が光を反射し、白く揺れている。

 昨日よりも岩が多く、流れも速い。


「……なんか、昨日と違くないか?」

 ジョニーが周囲を見渡しながら呟いた。

 川沿いの木々が不自然に傾いている。

 枝が折れ、地面には新しいひづめの跡。


 その時――


 ゴトン。


 鈍い音が、対岸から響いた。


「今の……石?」

 ナイナが立ち止まる。


 ジョニーは眉をひそめた。

「いや……ちが――」


 ――ドォンッ!


 轟音とともに、水しぶきが弾けた。

 川の中から何かが現れる。


「伏せろっ!」

 ジョニーの叫びが響く。

 水飛沫の向こう、影が跳ね上がった。


 全身を覆う黒鉄のような皮膚、

 岩をも砕く二本の角、

 血のように赤い瞳。


「バルロング……!」

 ジョニーが顔を歪めた。

「散れ! 岩陰に隠れて陣を引け!」


 指示に、全員が即座に動いた。

 マイクが盾を構えて前に出る。

 イェンが薙刀を構え、ナイナとオリーブが後方へ。

 ジョニーは索敵のために右手の岩を回り込む。


 しかし、ダイスケは違和感を覚えた。

 (――早すぎる)


 草を踏む音とともに、地面が震える。

 バルロングは川をものともせず、まっすぐこちらに突進してきた。


「マイク! 下がれ! 岩陰に!」

「いや、受ける!」


 マイクが盾を構えた瞬間、轟音が走る。

 衝撃波のような突進。

 マイクの身体が後方に吹き飛び、岩壁に叩きつけられた。


「マイク!」

 オリーブが駆け寄る。

 その横を、巨大な影が通り抜ける。


 バルロングの赤い瞳が、こちらを睨んでいた。

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