表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変わりゆく世界と拳の記憶  作者: Uta
アリウスの誓い
13/21

連携訓練と灰の午後

朝の空は薄灰。冷たい風が石畳を舐め、訓練場の砂を巻き上げた。

六人は円陣を組む。前衛はダイスケ、マイク、イェン。中間にジョニー。後方にはナイナとオリーブ。


リズ教官が手綱を軽く叩いて言う。

「今日からは連携訓練だ。個で動くな。群れで生きろ。分かったな!」


一斉に声が返る。「はい!」


木製の模擬魔物が訓練兵の手で一斉に突進してくる。

マイクがまず前に出て盾で受ける。鈍い音。

イェンがすかさず薙刀を横に払って、相手の体勢を崩す。

ダイスケが前に飛び込み、拳で木剣を弾き飛ばした。

「ナイス!」マイクの声が響く。

ジョニーが弓を引き、正確に“額”を射抜く。


後方ではナイナが魔力を練って水を空中に散らし、瞬時に凍らせた。滑った敵役が転倒。

オリーブは祈りの言葉を口にして両手を広げる。

「お願い、みんな頑張って!」

ふわりと白い光が仲間の体を包む。手足が軽くなり、心が澄むような感覚が広がった。


「これ……体が軽い!」

「すごいぞオリーブ、それ強化魔法じゃないか!」

オリーブは頬を赤らめ、照れたように笑う。

「ううん、ただ応援しただけです……!」


彼らは息を合わせ、左右から敵役を包み込むように攻めた。

薙刀の穂先が風を切り、盾と拳がぶつかり合う音が響く。

最後の一体が倒れ、砂煙が静かに沈む。


「勝った……!」

イェンが両手を上げ、マイクとジョニーがハイタッチ。

オリーブは胸の前で祈るように笑い、ナイナは満足げに炎をひとつ消した。


勝利の空気に満ちた、その瞬間――。


パンッ!


突如、閃光。耳をつんざく破裂音。白い煙が訓練場に広がる。

「うわっ!?」

「目が、目がぁっ!」


リズが煙の向こうで腕を組んで立っていた。

「作戦の一つや二つ上手くいったくらいで気を抜くな。魔物はそういうのを嗅ぎ分ける。」

ダイスケたちは全員、顔も服も真っ白。

イェンがむせながら言う。「……ひどいある……奇襲反則ある!」

リズは冷ややかに笑った。

「魔物に反則なんて言葉はない。戦いは、勝つか、死ぬかだけだ。」


ダイスケは目をこすりながら、息を整える。

「……肝に銘じます、教官。」

リズは頷き、「明日は最後の実務訓練だ。気を抜いたまま来るな」とだけ言い残し、去っていった。



灰の午後 ― 素材と薬草の仕事


午後はギルドからの派遣仕事。

薬草屋「フォルの薬舗」で、買取査定と素材の見分け方を学ぶ。

老薬師フォルが眼鏡をずらし、瓶を並べながら言った。

「回復薬に使えるのは“ミルリ草”。葉がしっとりして、折ると甘い匂い。こっちは“グル草”。よく似てるが、猛毒だ。汁が白く濁る。見間違えたら地獄行きだぞ。」


ナイナが水の魔法で葉を湿らせると、香りの違いがはっきり分かった。

「なるほど、魔法で確認するのね。覚えておこう」

フォルが目を丸くする。「器用な娘さんだねぇ。水の魔法使いは重宝するよ」


オリーブは回復草の束をまとめながら、つぶやいた。

「命を救う薬が、毒と紙一重なんて……怖いですね」

「命を扱うってのは、いつだってそうさ」フォルが笑う。「だから面白い」


その頃、男組は“剥ぎ取り場”にいた。

冒険者が持ち込んだ魔獣の死骸を解体する場所だ。

職人が淡々と手を動かす。皮、骨、内臓、血。全て素材となる。


「皮は防具、骨は装飾、血は薬に混ぜる。内臓も捨てない。これが生き物を“使う”ってことだ。」


ダイスケたちは作業を手伝いながら、改めて命の重みを感じた。

マイクは盾材になりそうな皮の感触を確かめ、イェンは薙刀の柄に合う堅骨を勝手に想像しながら作業にあたった。



夕暮れ ― 買い出しと決意


夕暮れ時。市場を回って装備の最終調達。

マイクは半盾を手に取り、重さを確かめる。

「これなら動ける。……お金は?」

「いいよ、俺が出す」ダイスケは即答した。

「ダイスケ!自分の拳具は?」

「拳は鍛えれば強くなる。金属は錆びる。」


イェンは薙刀を握りながら、少し不安そうに呟いた。

「これ、わたしには大きいあるけど……慣れるある」

ナイナが笑って背を叩く。

「イェンならできるわ。だって誰より頑張り屋だもの」

イェンは照れたように笑い、薙刀を胸に抱いた。


空には二つの月が浮かび、灰の街に淡い光を落としていた。

ダイスケは歩きながら心の中で呟く。

(少しずつ、だけど俺たちは“仲間”になっていってる。

 明日も、生きて笑えるように。俺が守る。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ