ワイアード・ソウルズのデブリーフィング
静かな夜明け。
街の東区――灰の丘の上にある供養場には、風に舞う香草の煙が漂っていた。
ジョニーは軍服の名残のような上着を正し、仲間の遺品が収められた木箱の前に膝をついていた。
ギルドの神官が祈祷を終える。
灰は風に乗り、二つの月の光の下へと散っていった。
この世界では、焼かれぬ死者は夜に還らず、彷徨い、魔となる。
――だから、火葬は別れの儀式であり、永遠の安息でもあった。
「……分かれて4日か」
ジョニーの声が煙の中でかすれた。
背後から、ダイスケたちが静かに見守っていた。
誰も言葉をかけられない。
ただ、風の音と焚かれる薪のはぜる音だけが続いていた。
やがて、煙の奥から、
懐かしい笑い声が聞こえた。
「おいおい、泣くなよジョニー。腹、冷えるぞ。」
振り向くと、そこには4人の影――
生前の仲間たちが立っていた。
迷彩服、軍靴、そして懐かしい笑顔。
ジョニーは息を飲む。
「みんな……無事だったんだな……!」
ひとりが首を横に振る。
「いや、違う。俺たちはもう行く。けど、お前に言い残すことがある。」
別の仲間が口を開く。
「お前、腹大事にしろよ。毎回すぐ下すんだからな、笑」
「拾い食いも禁止な。特に蛇とキノコ。あれは地獄だった。」
笑い声が響く。
ジョニーは目頭を押さえながら笑い返した。
「……あれは、任務中食料が尽きたから仕方ねぇんだよ。」
「そうそう。あの時、銃を突き付けたの覚えてるか?」
「はっ、そういうお前も俺に撃ってきただろうが!」
任務によって味方の時も敵の時もあった俺たち。
笑いが絶えず、風に溶けていく。
やがて、一人の仲間が口を引き結び、静かに言った。
「でもな……ここからは違う。」
「そうだ。俺たちは還るが、お前はまだ残る番だ。」
4人が揃って姿勢を正し、声を合わせる。
「敬礼ッ!
我々《ワイアード・ソウルズ》4名は、現時刻をもって殉職す。
我々は、ともに争い、ともに戦い、ともに生きた。
この魂を誇りに、それぞれの祖国へと還る。
貴殿、ジョニーには――この地における護衛任務を命ず。」
ジョニーは震える手で敬礼を返す。
「了解した、隊長。
この地で、もう一度……守ってみせる。」
リーダー格の男が微笑む。
「いいやつらだな、あの新人たち。……守ってやれ。」
最後にもう一度、仲間たちは敬礼を交わし、
風の中に、ゆっくりと溶けていった。
ジョニーは焚火の前に立ち尽くした。
煙が目に染みて、前がよく見えない。
けれど、その胸の奥では、確かに何かが燃えていた。
夜、ギルド宿舎の廊下。
ジョニーは窓辺に立ち、二つの月を見上げた。
「お前ら……ちゃんと帰れたか?」
月の光が静かに頬を照らす。
そしてその光の下、
遠く訓練場から、薙刀の素振り音が夜風に混じって聞こえた。
「……あいつらも、がんばってるな。」
ジョニーは小さく笑った。
「任務了解だ、隊長。
この街は、俺が――守る。」




