第96話 忠告
俺と霧生が恋人に、彼氏彼女になって数日後。
次の週末……つまり迷宮に潜る日がやって来た。
今週はフルメンバー揃ってる。
先に5階層に寄って、サクラの住んでいる廃ビルに立ち寄り、彼女を拾って。
その後、第6階層に向かう。
そして巨大樹の森に侵入し、出現するモンスターを狩っていく。
その中で
「吉常くん、また宝箱だよ」
「中身が気になるよな。綺麗な宝石類が出るといいな」
俺たちが、ハヌマーンペンギンを倒して。
……ハヌマーンペンギン。
それはペンギンが巨大な猿のように進化した姿のモンスター……
そこで討伐後出現した宝箱。
その中身について笑顔で語り合う。
ここ第6階層は、宝箱の出現率が明らかに第5階層より高くなってるのが嬉しい。
体感で倍くらいに跳ね上がってる感。
モンスターとの遭遇率も高い気がするけど。
そこで
「この階層の番人にはいつ挑みますか?」
モンスターを仕留めて宝箱処理のターンに入った皆に向けて。
俺はこの階層に存在する番人の話を切り出した。
もうだいぶさ、安定して戦えるようになって来たと思うんだ。
ここの番人を倒せば、次は第7階層に足を踏み入れられる。
クラスのランクも上がるしさ。
そんなの、気になるに決まってる。
この宝箱の処理をするつもりの榎本さんは
「サファイアドラゴンの話?」
宝箱処理の道具……ピックみたいなものの束を出しつつ、そう返して来る。
サファイアドラゴン……
名前の通り、身体がサファイアのような透き通る青い色の鉱石で出来てるドラゴン。
ドラゴンとしてのタイプは西洋竜で、後ろ足で立ってるタイプ。
背中に翼はあるが、フェイクで。
飛行自体はするのだけど、それで飛んでいるわけでは無いらしい。
(翼を破壊しても普通に飛び続けるそうな)
で、風と雷を操って襲ってくるそうな。
コイツを倒せれば、迷宮探索者はランク4に到達できる。
ランク4……
夢に胸が膨らむ。
俺は戦士4で学者3になれるし。
霧生は魔術師4、僧侶3になれる。
榎本さんも召喚士4戦士3。
そしてサクラは僧侶4学者3か……。
「そうね。そろそろ狙ってみてもいいかもしれないわね」
宝箱の前で身を屈め。
手際よく宝箱の罠を解除しつつ榎本さんは、俺の言葉を肯定し
「……ただ、楽な相手とは絶対に違うと思うわ」
宝箱の罠を解除して宝箱を開きつつ
そう、何故か釘を刺すように付け加えた。
「ちょっといいかしら?」
そして。
その日の迷宮探索が終了し。
サクラと5階層で別れ、俺たちは2階層でエレベーターを降りて。
今日は運が良かった。
今日のアガリが30万円を超えそうだな。
……そんなことを霧生と話していると。
榎本さんに言われたんだ。
「えっ?」
「何でしょう?」
俺たち2人はそう言って榎本さんに視線を向ける。
榎本さんは……
何故か、すごく厳しい目をしていた。
ただ。
それは怒ってるんじゃ無くて……
「どうしても言っておかないといけないことがあるのよね」
忠告。
それを口にする人間の顔だった。