第94話 決行して
霧生がどこかに行く。
俺も席を立った。
色々考えたけど、これしかない。
霧生が呼び出しを受けてて、これから告白を受けるなら。
その前に……
教室を出た霧生は、スタスタと速やかな足取りで、まっすぐ部活棟に向かっていく。
部活の部室が集中している棟に。
あの辺、昼休みは人が居ないんだ。
放課後は別だけどな。
霧生は部活に入っていない。
迷宮探索しているのに、そんな暇は無いからだ。
だから……多分
霧生はこの先に呼び出されている。
霧生の進む先に、徐々に人が減っていく。
そして校舎を出て、校庭を横切り、部活棟に差し掛かったとき。
「霧生」
俺は霧生を呼び止めた。
霧生が俺の言葉で立ち止まる。
そして振り返った。
「吉常くん……何?」
俺を見るその顔は少し気まずそうに見えた。
俺にはそう見えた。
……希望的観測かもしれないけど。
俺は息を吸い込み
そこで
……本当に言うんだな?
後で後悔するかもしれないぞ?
心の声。
俺がこれから言うことで、良い結果が引き寄せられる保証はない。
それが分かっていたから、自然に湧いて来た声。
でも
言わないでやってくるかもしれない未来。
それが一番恐れている未来なんだ。
……ここで決断すれば、少なくともそれは避けられる。
俺はだから
決断したんだ。
「霧生、俺はお前が好きだ」
俺の言葉に。
霧生は
表情を硬直させた。
そして唇を震わせて
「……私も」
俺の目を見つめて
「私も、あなたが好きだよ」
そう、返してくれた。
俺はその言葉が、本当の言葉だと一瞬思えなかった。
「えっ」
でも。
ここで嘘を言う理由は無い。
だから……
俺の心臓が高鳴る。
霧生……
俺は立ち止まる彼女に近づく。
俺の歩みに霧生は動かず待ち受けて。
そして手の届く範囲に来たとき。
「本当に……?」
俺の言葉に彼女は頷く。
「本当だよ」
ずっと吉常くんの彼女になりたいと思ってた。
そう言ってる霧生の表情は上擦ってる感じで……
俺は
「そっか」
そうなんだ。
霧生が嘘を俺に言うとは思わない。
じゃあ、そういうことなんだ。
だったら俺は、なんて言えばいいんだろうか?
「分かったよ」
意味のない返事。
でも、場を繋ぐためにしょうがないんだ。
……どうしよう。
俺はフラれるの上等で、自分の気持ちを他の男が霧生に告白する前に伝えることしか考えて無かった。
自分の想いを伝える前に、霧生が他の男の恋人になる未来が俺にとっての最悪だったんだ。
それを避けることしか考えてなかったんだ。
俺が戸惑っていると
「私ね、サクラさんに」
霧生がさ、俺に何か言いかけて黙った。
サクラが……?
ここで何でサクラなの?
「えーと」
訊ねるべきか?
何故か俺から目を逸らしている霧生。
霧生、何が言いたかったんだ?
いろいろ気になり、俺の注意が霧生から逸れる。
そのときだった。
いきなり霧生が、俺の頭に手を掛けて、強引に自分の方に引き寄せて来た。
完全に不意打ちで、俺は踏ん張るのが間に合わなくて
つんのめるような姿勢になって。
そこで。
霧生が背伸びしてさ
俺にキスして来たんだ。
それも、唇に。