第93話 自分の気持ち
霧生が誰かに告白される。
その事実に、俺の胸が騒めいた。
何でだ?
俺はどうしてそんなことになってるんだ?
……俺は男女関係に夢は見ていない。
女は裏切るもの。信用ならない。
そういう認識が多分ある。
父さんはあんなに立派な人なのに、牝豚に裏切られた。
牝豚に10年以上も養育費という名目で金を奪われ続けて来た。
そんなのって無いだろ。
それもこれも、女を信用したからだ。
10年以上経って再会した父さんは、再婚していなかった。
理由は俺がいたからか、もしくはもう二度と騙されたくないから……そういう理由じゃないのか?
確かめていないけど……
多分、そんなに間違ってはいないと思う。
俺は霧生を信用しているし、仲間として大切に思っている。
だけど……
恋愛感情というやつを、向けては来なかった。
別に霧生は、普通に可愛いと思うけど、それでもだ。
……理由は
俺の中にある。
霧生は仲間としては信用できても、恋人にしたら俺を裏切るかもしれない。
そういう思いがきっとあるんだろ。
恋人関係になったせいで、俺が霧生に裏切られたら……
多分俺は、狂うと思う。
何をするか分からない。
だから、それが怖くて……
自分の気持ちを見ないふりをして、ずっとこれまでやってきた。
だけど
今日、霧生は誰かに告白される。
告白されたら、霧生はOKを出すかもしれない。
霧生がそいつの恋人になるのかもしれないんだ。
その様子が頭の中を過ったとき……
俺はもう、自分を誤魔化すことが出来なくなった。
俺は霧生が好きで、ずっと一緒に居て欲しいと思ってる。
俺以外の誰かが、それを叶えるのは我慢ならない。
もう、今頃遅いかもしれないけど。
今動かないと絶対に後悔する。
だったらもう、するしか無いだろ……
教室に戻って来て、俺は考えた。
トイレで会話を盗み聞きした内容から推理すると。
告白は放課後を迎えるまでに終わる可能性が高い。
そうすると、多分休み時間だろ。
巷では直接面と向かって告白する以外に、メールで告白するパターンもあるらしいけど、そういうのはよっぽど親しくないとあり得ないハズ。
だからおそらく、直のハズだ。
……とすると
授業の合間の短い休み時間は無いだろ。
そんなの、霧生の都合ガン無視じゃないか。
だからあり得ない。
もうちょっと、余裕のある時間帯を選ぶハズなんだ。
だから
昼休み。
それ以外無いと思う。
俺はそう結論付けて。
今日の昼休みを待った。
今日は昼飯なんて食えない。
そんな暇は無い……
そして4限目終了のチャイムが鳴った。
「やった昼だー!」
「飯の時間だー!」
クラスメイトが騒ぎ出す。
弁当を出す奴。
購買に走る奴。
学食に行く奴。
……霧生は?
俺は周囲を見回し、霧生の姿を探す。
霧生は……
この教室の出入り口……そこの引き戸を開けて。
今まさに、外に出て行こうとしていた。