第87話 サクラの身の上話
「ワタシ、料理得意デスヨ」
そして砂時計で計測していたざっくりな時間で、そろそろ正午になったので。
その公園の隅のベンチで、昼食になった。
俺はコンビニで買って来たおにぎりと水。
霧生は持参した手作りの弁当。
そしてサクラはエターナルフルーツ1本だ。
サクラは実質バナナ1本分の食事時間なので、瞬く間に昼食が終わり。
その後はずっと喋っていた。
チンを射て宝箱が出現するとき。
かなり遠距離で射殺しても、宝箱は見える範囲内に出現する。
なので宝箱って、モンスターが所持しているというより、迷宮がモンスター討伐のご褒美にモンスターを討伐した人間に与えているものなのかもしれない、とか。
彼女の祖国の迷宮は、ここ日本よりモンスターの獰猛さが上らしく。
それは多分、彼女の祖国が迷宮探索者の学校を作ったので「迷宮への自由参加」という迷宮の意志に反したせいなんじゃないかとか。
迷宮探索者の学校に入る人間は、だいたいが出生届を出されていない闇っ子で。
迷宮探索者の学校に入れば戸籍も貰えるので、その後の条件が過酷でもワラワラ集まってきてしまうのだとか。
その流れで、サクラの身の上話が出た。
元々サクラは、嫁さんを手に入れられなかった男に有料で嫁に出す目的で育てられたそうで。
闇っ子にされたのは、人身売買する際に戸籍があると面倒くさいからのようだ。
……なんかひでえな。
で、そのために家事スキルは一通りこなせるようにされたらしい。
そこから最初の台詞「料理得意」が出たんだよ。
「ソトで働いテ良いなら、家政婦デキル思うデスけどネー」
……かなりヘビーな話なのに。
彼女は明るく笑った。
「サクラさんは強い人だな」
俺は思わず呟く。
そこに
「サクラさんはどこの入り口からここに来たんだっけ?」
口の中の食べ物を飲み込んだ霧生が、口を挟んだ。
「大阪デス」
「大阪かぁ」
霧生は何か、思いを馳せるような表情で
「私たちの街からはかなり遠くだよね」
そう言いつつ
「外で会うのはまず無理そうだよね。残念だなぁ」
そう続けて。
彼女はミートボールを口に運んだ。
ドラマの話になった。
サクラが日本語の実際を学ぶために見た日本のドラマの話を。
「3年B組アバッキオ先生はかなり見ましタ」
ああ、昔のドラマだよね。
問題児ばかりのクラスの担任になった帰化した外国人の男アバッキオが、生徒1人1人に向き合い、立ち直らせていく。
感動のドラマだ。
決まり文句が「真実に向かおうとする精神が大事なんだぜ」
そして毎回お茶を生徒に振舞うシーンで終わるのが特徴的なんだよな。
俺がその辺の、アバッキオ先生の話をサクラにしていると
「でもさ」
霧生が言ったんだ。
「あのドラマは最高にグッとくるドラマだけど、アバッキオ先生が日本に帰化できた理由が、日本人女性と結婚できたから、っていうの」
結婚を帰化の道具にしてるみたいで、私はそこがすごく嫌だったんだよね。
結婚ってそういうものじゃ無いと思うんだ。
……そっか。
女子が見ると、そういうもんなのかなぁ?
俺は霧生がちょっと言い辛そうにそう言う様を、そんなことを思いつつ見つめた。