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第83話 かつての実家へ

 多分おばあさんだ。

 声を聞くのは何年前だ……?


 あれが小学校1年か2年かのときだったら、だいたい10年ぶりくらいかもしれない。


 俺は一度大きく息を吸い


「吉常天麻です」


 ……名乗った。


 あなたの孫です、とは言えなかった。

 普通に考えて「調子に乗るな」だろ。


 すると。


 向こうで息を呑む気配があった。


 そして


『……入りなさい。鍵を開けるから』


 ……許可が出た。





「……とうとう、あなたがここに来る時が来たのね」


 紫色の高級そうな和服に身を包んだ、上品な老婦人に迎え入れられた。

 顔を覚えて無かったけど


 再会したら、おぼろげながらに見覚えがある気がした。


 通されたのはリビングで。

 広い部屋に綺麗で頑丈そうな木製テーブル。


 そこの椅子を薦められたので、俺は座った。


「で、今日は何の用なの?」


 お茶として紅茶を淹れてもらって。

 そう話を切り出された。


 俺は


「……実は、親権をアイツから父さんに奪ってもらいたいんです」


 用件を真っ先に言った。


 グダグダ周辺事情を言うと、俺の本気が伝わらない気がしたから。


「どうして?」


 おばあさんの言葉に、俺はスマホを取り出して。

 ネットバンキングでの先月の金の動きを呼び出した。


「見てください。先月俺が稼いだ金です」


 20万以上の先月の稼ぎ。

 それをおばあさんに示して見せて


「……このお金で、どこかの安アパートを借りて1人暮らしをするんです。でもそのために……」


 未成年は物件を借りるのに親権者の同意が要るから、アイツから親権を奪い取って欲しいんです。

 アイツが親権者でいるうちは、いくら稼げても独立が法律上できないから、と。


 俺のそんな言葉に。

 おばあさんは


「……分かった。ちょっと待ってなさい」


 言いながら自分のスマホを取り出して。

 多分、父さんに向けてメールを打ったんだ。




 そしてそこで俺は待たせて貰った。

 数時間くらい待たせて貰った。


 その間に俺の今をおばあさんに話した。


 俺の現在を


「……まさかあなたが迷宮探索者になってしまうなんて」


 おばあさんはかなり複雑そうだったよ。

 だけど俺は


「俺が望む未来の自分に到達する方法が、それしか無いと思ったんです」


 俺は、筋違いのお金を受け取りたくない。

 アイツの世話にもなりたくない。


 だから、そういうものの外にある仕事をするしかないんだ。


 その中で、唯一なんだよ。


 唯一、一人前の人間と見て貰える収入が得られるかもしれない仕事なんだ。

 迷宮探索者は……


 俺のそんな思いを


「……あなたは自分に厳しい子なのね」


 少し複雑な感じで、おばあさんは言ってくれる。

 別に俺はそんなつもりはなくて。


 ただ単に、権利だからと甘んじて道理に反するものを受け取るのを認めると、アイツの仲間になる気がしただけ。

 それだけなんだよな……


 そのあたりの想いも口にして。

 続けて


「見ていてください。最終的には高額所得者になって見せます」


 そしてこれまでの恩返しをする、そう言おうとしたとき。


「……ただいま。なんとか今、帰ったよ」


 玄関の方から、男性の声がしたんだ。

 年配の男性の声が。

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