第80話 自立のとき
「……先月の入金23万円……」
俺たちは第6階層入りして。
稼ぎ始めた。
で、今日でちょうど1か月でさ。
先月からの入金状況を確認したんだ。
すると……
先月、23万円利益が出たことを確認した。
うおお……
これまでのバイトの給料と比較して、はるかに多い利益。
なんだか自分が大金持ちになった気がする。
……多分、ここに税金が掛かって目減りしていく展開になるんだろうけどさ。
俺の自立がもう、目の前にある気がした。
だから
「……いよいよ、やってみるか」
畳の上でうつ伏せで。
俺は自室でスマホを眺めて、ポツリと呟いた。
俺が、俺の金で部屋を借りて、ここから出て行く。
これまでずっと目指していたこと。
月の給料20万越えなら、ギリギリ達成可能なんじゃ無いだろうか?
一般にも「第6階層で稼げるなら自立できる」って言われているわけだし。
そのためには……
俺は、どうしてもやらなければならないことがあった。
第6階層は森の世界。
そこら中に冗談みたいに馬鹿でかい木が生えまくってる。
それこそ、天に届くんじゃないかと思える、縄文杉クラスの巨木ばかりが。
そこで俺たちは今日はランドクラーケンと戦っていた。
ランドクラーケンは、巨大な烏賊が陸上生活に適応した姿、という表現が一番適当なモンスター。
全体的なフォルムは象に近い。
大きさも大体アフリカゾウくらい。
で、本来なら象の鼻と牙の部分に、烏賊の触手が生えている。
鼻の部分の触手が巨大で、牙の部分に生えた触手は比較的小ぶり。
そんな化け物が、ぬめぬめした白い巨体で
地面を激しく踏み鳴らし、俺たちを全滅させようと暴れまくっている。
白い鼻の巨大触手で薙ぎ払い、牙の部分の触手でターゲットの拘束を狙ってくる。
それがこの、ランドクラーケンの戦闘スタイル。
プシュルルル!
特徴的な鳴き声をあげつつ、ランドクラーケンがその巨大触手を振るい、俺を叩き潰そうと振り下ろして来た。
俺は右手のニヒムでそれを切り払い、先端部分を斬り飛ばす。
プギャアアア!
ランドクラーケンの悲鳴。
俺は暴れる触手を避けるように走りつつ
(……まだ十分に二刀流やれてるとは言えないな)
そう思い、左手に握った俺が最初に使っていた長剣を見つめる。
あれから
俺は二刀流を身に着けようとずっと足掻いてる。
いくらかのお礼と引き換えに、プロの指導を受けながらね。
武術家界では名の知れた先生にお願いしたから、多分これで間違いは無いはずだ。
……そしてそのまま戦い続けて。
「セイヤアアッ!」
俺がランドクラーケンの脳に、顎下から突き上げてニヒムの切っ先を突き刺すと。
ランドクラーケンがビクンと震えて
次の瞬間、消滅した。
……勝てた。
俺は大きく息を吐く。
「吉常くん、お疲れ」
そこで俺を労う榎本さん。
俺は額の汗を拭って
「……どうも」
そう言葉を返す。
「皆サン、Treasure chestデスヨ!」
宝箱出現について嬉しそうにサクラ。
彼女は宝箱の罠解除も出来るので
「シースルー! アナライズ! ……ガス爆弾です!」
霧生の罠鑑定結果を聞き届けた後に、すぐに解除に取り掛かった。
……サクラはさすがというか。
迷宮探索者の学校に居ただけあるよ。
自前の努力で身に着けられる、迷宮探索者向けの技能は全部持ってるし。
まぁ、それよりも。
俺は、罠解除の行方を見守る2人に
「ちょっといいですか?」
……そう言葉を掛け
「えっ、何?」
俺に視線を向けて来た2人に
こう、続けたんだ。
「……実は俺、次の週末に戸籍上の実父に会いに行こうと考えています」