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第79話 二刀流

「そろそろ入場開始だよね?」


 待ち合わせに現れた霧生は、そう言って体育館を指差した。


「あ、ああ」


 俺はそう、半ば呻くように言った。

 服、よく似合ってる。


 いつもは、迷宮探索時の動きやすい格好と、学校での制服姿しか見て無いから新鮮だった。


 なので


 今日の格好よく似合ってる。

 そう言うべきなのか、そう思った。


 でも……


 別に今日は、デートでは無いんだ。

 単に俺のために、学習目的で本場の武道の演武を見に来ただけ。


 それだけの話で。


 それなのに、服装を褒めるなんて。

 何か勘違いして無いか……?


 勘違い。


 ……俺の脳裏に、牝豚のツラが浮かぶ。

 いいトシこいて、分不相応な高い服を買い、無駄に化粧品を揃えて、男の気を引くことに余念がない卑しいゴキブリのツラが。


 ここで霧生の服装を褒めることは、何だか俺もアイツと同じ次元の人間になってしまうような気がした。


 だけど……


 霧生、普段しない格好で来たのは。

 俺に対して気を遣って来たってことなんだよな。


 一緒に行動する人間が、変に見える格好をしていたら、俺が恥ずかしい想いをするんじゃないかとか。

 そういう意味合いで。


 ……だったら


「霧生」


 俺は先行して体育館に入ろうとする霧生の背中に


「今日の服、秋らしくて……そしてすごく上品に見える」


 そう言葉を掛けた。

 俺の言葉を受けた霧生は立ち止まり


「……あ、ありがとう」


 なんだか、戸惑いを感じる声で返して来た。

 急にそんなことを言われて、困惑したのかもしれない。


 でも俺は、ここで霧生の気遣いに何らかの言葉を出さないと駄目だろと思ったんだよな。




 体育館で俺たちは、古流剣術の技の演武を見学した。

 2階にずらりと並んだ観客席で。


 巻き藁を斬る演武、居合、立ち技……


 正直、巻き藁を斬る演武は、一応俺もその域には居ると思うので参考にはならなかったけど。

 居合や立ち技の演武は初めて見るものだったので、かなり集中的に見た。


 特に俺が注目していたのは、二刀流。

 2本の刀を使用して、その技の型を見せてくれる。


 ……二刀流って、確か剣道では基本禁止なんだっけ?

 理由は、防御の面で有利過ぎるから。


 俺の脳裏に、アイツの攻撃的な剣が蘇る。

 あの男……四戸天将の。


 二刀流……

 俺も身に着けられないものかな……?




「演武、良かったね」


 12時になり。

 演武会が終わった後。


 2人でファミリーレストランに入った。


 ……さすがに焼肉では無い。

 今日は服装が服装だしな、


 焼肉屋の臭いがつくとか心配になるだろうし。


 2人でボックス席に着き、互いにメニューを見ながら

 俺は


「ああ、すごく勉強になった」


 そんな俺の感謝の言葉に霧生は嬉しそうに笑い


「良かった。サクラさんは弓を動画で見て基本を学んで、その後に向こうの迷宮でモンスター相手に経験を積んでいったって言ってたから、こういうの吉常くんのプラスになると思ったんだよね」


 そう、楽し気に返してきた。




 何を注文するかでちょっと悩んだが。


 最終的に俺はハンバーグステーキセットのご飯付き。

 霧生も同じものを注文。


 俺がこれを頼んだのは、御飯がお茶碗で提供されるからなんだよな。


 同じものを頼んだから、同時に2つのハンバーグステーキセットが運ばれてくる。

 霧生は普通に、右手で箸を持ち、左手でお茶碗を持って食事を開始する。


 だけど、俺は……


 一念発起。

 右手でお茶碗、左手で箸を持つことを試みる。


 すると……


 なんか、何とか出来た。

 慎重に、俺も食事を開始する。


「あれ?」


 すると霧生は気づいたようだ。


「……吉常くん、実は左利きだったの?」


 俺はその言葉に


「違うよ」


 そう、一言返す。


 なんとか左手で箸を持つことはすぐ出来た。

 だったら……


 二刀流、俺も習得できるかもしれん。

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