第74話 お礼してくれる言ったじゃんよ
「霧生サン、吉常サン昔1人で迷宮に入っていたのカ? 何でダ?」
「えっ」
サクラの言葉に、霧生が戸惑う。
俺はちょっと迷ったけど
「俺、迷宮探索1本で生活していくのが目標なんだよ」
伝わりやすいように、なるべく平易な言い方に気を付けて俺は自分の夢を語った。
俺の言葉に
「ソレデ何デ? ひょっとしてニホンにも契約で迷宮に入る仕事あるのカ?」
契約で迷宮に入る仕事……
うん、確かにそれはあると思う。
企業と契約して、社員として潜ってる迷宮探索者って聞いたことあるし。
でも、多分。
サクラが言いたいのはそういうことじゃないだろう。
多分……
彼女の場合のような、契約で拘束されてて、無理でも潜らないなら死ぬしかない。
そういう状況に追い込まれる仕事があるんですか?
そしてあなたはそういう仕事に就いているんですか?
そう言いたいんだと思う。
なので
「いや、自発的にやってた。アンタ……サクラさんみたいに行かないなら破滅させるぞと脅された結果じゃ無い」
アンタ呼ばわりはさすがに失礼かと今頃思い、言い直しつつ。
俺は自分の事情を語った。
「ナンデ? 1人で戦うのハ無謀デショ?」
「腕を落としたく無くて」
サクラ、俺の話の意味が分からないって顔をしている。
まぁ、そうだろうな。
サクラにしてみれば、1人で潜るくらいなら勉強して学業に精を出すなり、他の仕事してればいいじゃない。
危険な迷宮探索に拘る理由なんてないでしょ? ってもんだろうと思う。
かつての彼女みたいに迷宮探索者としての活動に期限付きの目標があって、その目標が達成できないと人生終了させられるわけじゃないんだし。
で、ちょっと迷ったが
「……俺、家庭事情が複雑でさ、まともに進学するのは許されない状況なのね?」
しょうがないので、自分の置かれている環境をなるべく簡単に説明する。
不幸自慢みたいなのは嫌いだから言いたくないんだけどな。
「なので、学歴無くても、例え犯罪歴があっても、生きて動ける限り必ず仕事があるプロの迷宮探索者になりたいんだ。この道で一流になれば、俺の環境でも一人前の人間になれるんだよ」
「ソウカ」
そこまで話すと、サクラはそれ以上は訊いて来なかった。
察してくれたのか。
「わ、私は迷宮最下層が見たいから、吉常くんと一緒に行こうって思ったんだよ!」
霧生の追加情報。
これでまあ、未成年の日本人が2人、迷宮探索者で活動している理由は伝わったかな。
その言葉を聞いてサクラは頷いて
「吉常サン、お礼する言ったですナ」
……唐突に話題をそっちに変えて来た。
「何が良い? 現金ならあまり多くは用意できないけど」
俺は自分の言い出したことだし、俺の懐から出そうと思いつつそう訊く。
するとサクラは首を左右に振る。
現金は要らないってことか。
「じゃあ日用品? 下着とか服とか?」
そこにすかさず霧生。
それもサクラは否定。
「現金でも日用品でも無いなら……犯罪系はさすがに……」
「チガウ」
榎本さんが言い辛そうに言ってきたことは、彼女は食い気味に否定した。
じゃあ、何なのか?
注目する俺たち。
すると彼女は言ったよ。
俺が予想もしていなかったことを。
「ワタシ、吉常サンならfinal stageに行ける思う。是非連れてって欲しイ」
……えっと。