第72話 外国の迷宮探索者
えっ
「ここに住んでるって……迷宮に住んでるってことか?」
俺の言葉に、サクラは頷く。
マジか……
「どうやって住んでんの?」
思わず訊くと
「……ビルの一番上に住んでル。そこならMonsterに襲われナイ」
モンスターの発音だけがやけに流暢だった。
まぁ、それはどうでもいいか。今は
そっか……
俺の妄想してたこと、実現可能な妄想なんだな……
彼女の言葉に、俺は少し感心していた。
「クラス能力は何処で手に入れたの?」
そこに榎本さんの言葉。
榎本さんは彼女が迷宮内で住んでいることに、特に思うところは無いのか
冷静に、一番の疑問点を訊ねる。
50万円積んで客にクラス取得させる例のガイド業も、外国人が迷宮探索者に依頼することはできない。
俺だって、最初にタダ働きでクリスタルに触れに行ったとき。
そのパーティのリーダーに言われたさ。
一応身分証と住民票持ってきて、って。
もし相手が外国人であることを知ってて、その上でクリスタルに触れてクラス取得する手伝いをしたと発覚したら、確実に執行猶予無しで牢屋に入れられてしまうんだ。
だから誰もそんな危ない橋は渡らない。
なので来日して、こっそりクラス取得したとしたら……
ソロでやったということになる。
……無理があるだろ。
しかも彼女、少なくともランク3は間違いないんだ。
つまり番人戦もこなしてるんだよ。
一体、どういうことなんだ……?
俺のそんな疑問は
「……ソコクで取った。ワタシ、ソコクで迷宮探索者の学校に行ってタ」
その言葉で全部氷解した。
ああ、そういうことか。
日本には無いけど、迷宮探索者の学校作った国があったな。
そこの出か……
だったら、彼女がランク3なのも頷ける。
なるほど……
「……マア、休んでホシイ」
その後。
彼女の住居に案内された。
モンスターがウロウロしている場所で立ち話をしていると危ないし。
どこか落ち着けるところということで。
案内されたんだ。
彼女が住んでいるのは言った通り10階以上あるビルの最上階で。
そこの一室だった。
その部屋は薄汚れたベッドが1つと、本棚があり。
部屋の隅に青いバナナ……エターナルフルーツと。
水が入ったタンクがあった。
本棚には数冊の本が入ってる。
全部日本の書籍で
全て分厚い娯楽小説だった。
俺たちは床に腰を下ろす。
「で……どういうことなの?」
榎本さんが話を切り出す。
どうして迷宮探索者の学校にいた人間が、日本の迷宮の第5階層の廃ビルに住み着いているのか?
そのことについて。
彼女はベッドに腰掛けて
「……ワタシ、ソコクから逃げて来タ。ソコクの学校でハ、とにかく前に進むコトが義務ダッタ」
なんでも。
彼女の祖国の迷宮探索者の学校は誰でも無条件で入れて。
かつ入ったら衣食住、基礎的教育、資格試験。
各種全て国が面倒を見てくれるけど。
期限までに次のステージに行けないと、退学処分にされるらしい。
そしてそのとき
そこまでにかかった経費を全て請求されるんだと。
つまり、破滅する。
……えげつない。
そこまでするか、と俺の背筋が寒くなった。
そして彼女は、なんとかランク3に到達し、サブクラスも取得した際。
そこから先に自分が期限内で到達することがどうしてもイメージできなくて。
逃げることを決意したんだそうだ。
そのためにこっそり日本語のテキストを買い、日本のドラマを見て日本語を覚え。
現地の闇組織のルートをつかって、日本にやってきたそうだ。
……うん。
なんというか。
……この人、行動力がパネェな。
そこで俺は、このサクラと名乗っている女性に好印象を持った。
逆境の中で自分が生き残るための最善手を模索して実行して、成し遂げるなんて。