第71話 日本の常識問題
「ありがとう。助かりました」
俺はその女性に頭を下げる。
榎本さんも霧生も後に続く。
すると彼女は
「……死ヌ人は居ない方が良いカラ」
そう、なんだか居心地悪そうに返す。
そして
「約束通り、お礼をしたいです。連絡先を教えていただければ、現金作って後日2階エレベーターあたりで……」
俺がそう切り出すと、彼女は
「イラナイ。死ヌ人を出したくナイから手伝ったダケ」
……やっぱり違和感がある。
言葉のイントネーションがおかしい。
まさか外国人じゃ?
そう思ったのだけど
(確か、外国人がクラスを取得するのは禁止されてんだよな)
外国人がクラス取得目的で来日することは禁止されている。
日本で外国人がクラス取得することを大っぴらに認めてしまうと、本国に戻ったときにそのクラス能力で犯罪を犯した場合に、日本の責任になるから、ってのが表向きの理由。
でも本当のところは違うんだろうな。
多分、国防関係。
テレポートが使えるスパイとか、身体能力が超人レベルの工作員とか。
普通に考えてヤバすぎるし。
この件に関しては、だいぶ国家間で揉めたとか、何かの本で読んだ。
でもまあ
「……せめて名前を教えてください。恩人ですし」
本心でそう訊いた。
するとだ
「サクラ……」
サクラ……
なんか典型的日本人女性名って感じだな……
まるで、テキストに載ってる名前……
英語の教科書で言えば、マイクやジェーンみたいな……
どうしよう……?
突っ込んでみようか……?
そう、俺が迷ったとき
「泣き虫?」
榎本さんがそんなことを言ったんだ。
サクラと名乗った女性は、ポカンとしていた。
その様子に
「……あなた、外国人ね?」
そう、榎本さんが看破した。
「ナ、何を言ってるオマエ!」
焦るサクラ。
そんな彼女に
「……この日本で、サクラという名前なのに泣き虫というあだ名で虐められた経験が無い人間はいないのよ」
フウ、と息を吐きつつ。
少し残念そうに。
……ホントかぁー?
榎本さん、カマ掛けてるんじゃあ……?
そう思ったけど。
俺としてもホントのところは知りたい気持ちはあったから
「確かにそうだ。おかしい」
調子を合わせて頷く。
「あと、クロウカードを集めているんだよね、ってのも鉄板だよね!」
霧生も便乗。
便乗内容、よくわからなかったけど。
日本人全員にそう詰められたせいか
「クッ!」
サクラは顔を強張らせて背を向けて走り出そうとする。
逃げる気だ。
俺は
「通報したりしないから、待ってくれ!」
咄嗟にそう彼女の背中に言葉を投げ掛けた。
……するとだ。
彼女は立ち止まり、そして
振り返って、俯き加減で
「……ワタシ、ココに住んでる。日本には迷惑掛けてナイ。ほっといてホシイ」
そんなことを。
やっぱり少し、イントネーションがおかしい言葉で言って来たんだよ。