第68話 ハードラックすぎるにもほどがある
毒鳥チンは、この第5階層の一区画を住処にしていて、基本的にそこから出て来ない。
理由は教えて貰えなかった。
というか……多分経験則なんだろうな。
なんかほぼ出て来ないから、多分そうなんだろう、的な。
その区画に行くと、ムクドリばりに山ほどいるらしいが、そこ以外ではほぼ見ないらしい。
毒鳥チンは、深刻な体調不良を招く毒を羽根から振りまく。
純粋な強さ自体は大したことないんだけど、毒の危険性が舐められない。
先に発見すれば一方的に倒せるけど、奇襲を掛けられるととんでもないことになる。
そう、今みたいに。
俺たちは全員、チンの毒による眩暈と脱力感に襲われていた。
「……ファイアーボール!」
霧生が毒による苦しみに耐えつつ、右手を翳してチンに爆裂火球を撃ち込んだ。
チンはそれを避けようとヒラヒラ舞うが
「爆発!」
霧生のその声でファイアーボールが空中で破裂し、その爆炎でチンを飲み込む。
ファーッ!
チンの鳴き声が炎の中に消えた。
……知らなかった。
ファイアーボールの起爆って、着弾しなくても術者がコントロールすることができるんだな……
俺は毒にやられながら、霧生のその魔法の使い方の上手さに感心してしまった。
チンはその爆発一撃で倒されたらしく
同時に、宝箱が出現する。
特に豪華な装飾の無いもので、大きさはそこそこ。
……チンもモンスターだから、倒すと宝箱が出る場合あるんだよな。
榎本さん曰く、稼ぎ目的でチンの居るエリアに向かうパーティもいるとか。
……でも。
今はそれどころじゃない。
「吉常くん、本当に大丈夫?」
「大丈夫だ……とりあえず戻らなきゃ」
俺たちは、引き返すことにした。
これから先はもっと危険になるのに、この毒状態で前に進むのは無謀すぎる。
俺は毒による脱力感と眩暈に耐えながら、霧生と榎本さんについていく。
残りの毒消しポーションは2人に使ってもらった。
俺の分は既にヒュドラの毒を消すために使った。
チンの毒が命にすぐさま関わるものではない以上、俺にその権利は無い。
廃ビルの影に隠れるようなルートを選びながら、俺たちはエレベーターがある最初のエリアを目指して歩き続ける。
「……今回は本当に運が無かったわね。諦めずにまたアタックを掛けましょう」
榎本さんが周囲を警戒しつつそう呟く。
「エネミーサーチで見抜けなくてすみません」
霧生がそう、他メンバーに詫びた。
それに対して榎本さんは
「……チンは襲っては来ないのよ。だから多分反応しないんじゃないかな」
そう言って、顔を顰める。
チンは好戦的なモンスターでは無く、普通はただ居るだけらしい。
まあ、居るだけで周囲に毒を撒くのだけど。
俺はさっき、便宜上「奇襲」って言ったけど、チンにしてみれば「たまたま俺たちがいる場所を飛んだだけ」なんだ。
敵として襲って来てないから、エネミーサーチにも反応しないのかも。
……危なすぎ。
「霧生、責任感じなくていいから」
大体、俺にそれを言う資格ないし。
今の窮地は俺が剣に呑まれたせいだしな。
あとは無事に、エレベーターまで辿り着ければ……
「エネミーサーチ」
そのときだ。
霧生がエネミーサーチの掛け直しをしたんだ。
……つまり、効果時間の1時間が過ぎたのか。
エネミーサーチの効果時間は1時間。
デオードの効果時間と一緒なんだ。
ここから先はデオードなし。
……俺の肝が冷えていく。
マズいな……
でも、どうしようもない。
対策が無いんだ。
あとは……祈るしか。
だけど。
「……何かに気づかれた!」
そこから数分後。
霧生の口から聞きたくなかったその言葉が出て来たんだ。
霧生の顔は青くなっていて。
榎本さんの顔が強張っていた。
……クソッ、ついてない……!
俺も自分を奮い立たせ、ニヒムの柄に手を掛けた。
そこから1分経たないうちに
ウボオオオオオオ!!
特徴的な鳴き声をあげつつ。
ビルの影から
地響きのような足音と共に
この場合に一番現れて欲しくないモンスター……
アホみたいにデカい戦斧を引っ提げた、ゴリッゴリの筋肉を搭載した2メートル越えの巨体……
紫色の牛頭獣人……ミノタウロスが現れたんだ。