第67話 ハードラックとダンスしてしまうとき
最後の首が刎ねられた瞬間、ヒュドラの巨体が塵になって消滅した。
まだ火炎処理はしてないけど、首を全て同時に失っても死んでしまうのか。
発見だ。
……今、それどころじゃないけどな。
その数秒後、激しい痛みが俺の胸から腹にかけてを襲う。
「……グ……グアアアアアアーッ!」
ニヒムを手放し倒れ伏し、七転八倒。
叫び声が喉の奥から止まらない。
味わったことの無い痛み。
どこも傷つけられていないのに。
傷が無いから手で押さえられない。
どうしようもない地獄の苦痛……
傷口もないのに、胸や腹を掻き毟るように掴み、絶叫しながら転げまわった。
「吉常くん!」
そこに
ドバババと、俺に液体が掛けられる。
毒消しポーションの中身だ……
途端に、まるで引き潮のように痛みが引いていった。
助かった……
痛みが無くなり、俺は身を起こして
「ありがとう」
毒消しポーションを俺に掛けてくれた霧生に礼を言った。
「吉常くん、汗がすごいよ」
しゃがみ込み、ホッとした表情で俺を見て、霧生は俺にそう言った。
汗……?
額を拭うと確かに汗が。
まあ、あれだけ苦しければ汗も掻くか。
「ハイ」
霧生が青いハンドタオルを渡してくれた。
俺はそれを流れで受け取り
「ありがとう」
礼を言って汗をそれで拭ってから
(えっ、これ霧生のじゃ)
そこに気づき
「新しいのを返すよ」
そう言うと
「別にいいよ。家で自分で洗うから」
霧生は俺の申し出に、そう返してくれる。
……ありがとう。
彼女の気遣いに涙が出そうになった。
しかし……
(さっきの俺は、剣に呑まれていた)
今頃だけど、自覚した。
強いモンスターを斬り捨てる快感に酔っていた。
あまりにも強力すぎるニヒムの強さ。
そこから来る戦士としての全能感に。
これが酷くなると、多勢に無勢の状況で、逃げずに戦って死んでしまうとか。
そんなことをやってしまうんだろうな。
気をつけないと。
今日のこの苦しみは、そのための警告。
そう思おう。
そう、自省していたら
「タオルもういい?」
傍の霧生が手を差し出して来た。
渡して、とでも言いたげ
ちょっと迷ったけど
「ありがとう」
そう言って、霧生にタオルを返そうとした。
そのときだ。
霧生の顔が強張り、胸を押さえて地面に手をついた。
苦し気な表情。
えっ?
そう思ったとき。
……俺にも襲って来た。
脱力感と眩暈。
突然の体調不良が。
えっ
何で……?
理解できなくて、脱力感に耐えながら必死で顔を上げ
驚愕する。
そこには、体長1メートルくらいの鳥が羽ばたいていた。
顔は雀に似ていて。
嘴に銅の輝きがあり、その羽毛は緑色の鳥だけど
羽根が何だか……蝶のようだった。
鳥では無く、明らかに蟲なんだ。
ファファファファファ……
嗤うみたいな鳴き声が響く。
……コイツ!
まずこの辺には出ないから警戒しなくていいって、榎本さんに言われてたやつだ。
この第5階層の一区画を主なテリトリーにしているモンスター……
毒鳥……チン!