表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/179

第65話 セカンドクリスタルに向けて

 デオード、よし。

 毒消しポーション、よし。


 迷宮に潜る前、俺たちは自分たちの街のアドベンチャラーズに預けてたデオードと毒消しポーション、3本ずつを引き出した。

 背負い鞄に丁寧に詰め込み、最終確認。


 霧生と2人で、リストを指差しながらひとつひとつチェックした。

 これを忘れたら、今日の決断が水の泡だ。


 迷宮内に機械時計は持ち込めないけど、約束の時間に遅れないように迷宮の入り口を潜る。


 そして第2階層のエレベーターホールで榎本さんを待つ。

 静かなホールに、俺と霧生の2人。

 あまり待たずに、現れた榎本さんと合流する。


「油断せず、冷静にいきましょう」


 挨拶もそこそこに、彼女はいつもの落ち着いた声で言う。

 魔槍ファウストを肩に担ぎ、鋭い目で俺たちを見据える。

 エレベーターの箱を待つ間、榎本さんがぽつりと話し始めた。


「アタシのときは6人パーティだったわ」


 彼女の経験談だ。

 戦士3人、召喚士、僧侶、魔術師の所謂フルパーティでセカンドクリスタルに挑んだらしい。


 安定感はあったけど──


「隠密行動が上手くいかなかったと思う。人数が増えると、モンスターに見つかる可能性が高まるのね」


 だから、と彼女は続ける。


「今のアタシたちは3人。半分の人数。アタシのときと比べて有利な面があるとしたら、そこよ」


 なるほど。

 6人でギリギリだった戦いに、3人で挑む。

 準備を重ねても無謀に思える。


 でも榎本さんの言葉は、少ない人数が逆転の鍵になる可能性を示してる。


 希望が少し湧くけど──それでも、苦しい戦いになるのは間違いない。


 エレベーターの箱が第2階層に到着し、ガコンと音を立ててドアが開く。


 これから第5階層。

 運命の瞬間だ。




 エレベーターから出ると、鉛色の空と雷鳴が俺たちを迎える。

 廃墟ビルの影が、不気味に揺れている。


 俺は鞄からデオード3本を取り出し、霧生と榎本さんに渡す。

 それを俺たちは3人同時に自分の身体に振りかける。

 降りかかる液体は冷たかったが、すぐに蒸発するように消えてしまい、濡れることは無かった。


 中身が空になり、消えてしまうデオードの瓶。


 それと同時に霧生が腰の砂時計をひっくり返し、砂が落ち始める。

 続けて


「エネミーサーチ!」


 彼女の魔法が発動。

 周囲の敵の気配を探る波動が、霧生を中心に広がった気がした。


「さあ、行くぞ」


 たった1時間。

 榎本さんの話では、セカンドクリスタルまでは戦闘なしで20分ほど。


 戦闘は避けられない場合のみ、1~2戦に抑える。

 それが事前の打ち合わせだ。


 俺たちは速やかに出発した。

 廃墟ビルの間を縫い、セカンドクリスタルのある場所を目指す。




「このまま進むと、敵に遭遇するよ」


 霧生の警告。

 俺たちはピタリと足を止める。


「立ち止まってはいないから、ちょっと待って」


 彼女の指示通り、1分ほど息を潜める。

 遠くで雷がゴロゴロ鳴る中、緊張感が漂う。


「OK……いこ」


 こんなやりとりを、すでに2~3回繰り返してる。

 時間のロスは気になるけど、戦闘するよりマシだ。


 ……でも、砂時計の砂は確実に減ってる。

 帰りはデオードが切れる可能性を覚悟しないといけないよな。


 頭の片隅で、そんな計算がチラつく。

 だが、その次の瞬間だった。


「ストップ!」


 抑えているけど、霧生の声が鋭い。


 またモンスターか?

 最初は軽く考えてたけど。


 彼女の顔が強張ってるのを見て、嫌な予感がした。


 チラリと霧生の腰にぶら下がってる砂時計を確認。


 ……まだ砂は充分残ってる。デオードの効果時間内だ。

 だとすれば


「……来る。向こうもこっちに気づいたみたい」


 霧生の言葉で、背筋が凍る。

 俺は咄嗟に魔剣ニヒムの柄に手をかけ、引き抜き、構える。


 榎本さんもファウストを握り、ウォードックの召喚準備を始める。


 数秒後、目の前のビルの影からそいつが現れた。


 9つの頭を持つ数メートルの黒い大蛇。

 黒光りする鱗の巨体に、爬虫類より人間に近い顎を持つ目のない頭。


 シャアアアア……。


 空気を吐く爬虫類らしい不気味な音が、廃墟に響く。


 ……これがヒュドラか。


 そんなヒュドラの9つの頭が、俺たちを一斉にロックオンしている。

 人間のような舌を吐き出し、ゆっくり這い寄って来る。


 想像の数倍不気味で、恐ろしかった。

 だけど……


 来い――!


 俺は剣の切っ先をヒュドラに向けて。


 覚悟を決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
感想をいただけましたら必ず返信致します。
些細な感想でも頂けましたら嬉しいです。
ブクマ、評価、いいね等、いただけましたら感謝致します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ