第62話 5階層のモンスター
「吉常くん、行くよ!」
霧生が盾を構えつつ
「ファイアーボール!」
えっ、と思った。
さっき言ったじゃん!
火炎無効だって!
もしや掛け声と内容が違うという、フェイント?
そう思ったけど。
霧生の手からの撃ち出されたのは火炎球。
掛け声と同じ内容のものがキマイラに向かってカッ飛んで行って。
着弾し、爆裂。
キマイラを火炎に飲み込むけど。
今、何かしたのか?
キマイラはそう言いたげな顔で、変わらず俺たちを睨めつけている。
何をやってるんだ、と思ったけど。
俺は何も言わなかった。
榎本さんもだ。
多分、分かってるんだよな。
「喰らえ!」
気にせず俺は間合いを詰めてキマイラに斬りつける。
薙ぎ払ったニヒムの刃は、キマイラの右の前足を切断した。
グオオオオオ!
キマイラの悲鳴。
切り離したキマイラの前足が、塵になって消滅する。
まず1つ!
そう思った。
だけど
「……ひーリンぐ」
ヤギの首がそう魔法の言葉を発し。
その言葉が終わると同時に、キマイラの身体が輝いて、失った右前足がみるみる再生していった。
えっ
驚く俺に、榎本さんが
「……多分、キマイラはほっといたら時間がかかっても部位欠損が治るのね。だからヒーリングで再生するのよ」
普通、僧侶ランク1の魔法「ヒーリング」は、人体欠損には効果が無い。
あくまで「適切な治療をすれば普通に治る傷」までが対象だ。
つまり治るのは切り傷とか、打撲とか骨折まで。
無くした手足や目や耳を治すには、ランク5のリザレクションという魔法を使わないと駄目なんだよ。
でも、それは人間相手の話。
キマイラは人間じゃ無いから、普通に治る傷のレベルが違うので、その対象外なんだな。
……なんかインチキの香りがする。ずっこいな。
でも、これが第5階層……
「聞いて!」
その言葉に俺は、榎本さんに目を向ける。
彼女は魔槍ファウストの槍の穂先をキマイラに突きつけるように構えながら
「まずはヤギの首! 傷を回復されたら攻撃が無意味になるから! それからライオンの首のファイアブレスに気をつけなさい!」
榎本さんの指示が飛ぶ。
キマイラが一気に動き出した。
大きく開けたライオンの口から赤い炎が噴き出し、俺たちに向かって一直線に迫ってくる。
俺たちは四方に散る。
そして
「ウォードック!」
榎本さんの召喚魔法。
黒い狼犬である、ウォードックが光の魔法陣から呼び出される。
召喚されたウォードックは即座にキマイラに向かって飛び出した。
「ファイアーボール!」
それに合わせて再度霧生の魔法が発動し、爆裂する火球がキマイラのライオンの頭を直撃。
だが、火炎無効のせいでダメージは多分ない。
ヤギの頭が動き、霧生に視線を送っている。
何をやってるんだこいつは、とでも思っているのかもしれない。
「ファイアーボール!」
さらに三度、霧生のファイアーボールの声。
今度はキマイラは避けようとしなかった。
榎本さんのウォードックが毒蛇の尾に噛みついて、攻撃して来るから、そちらに専念しているようだ。
そして大きく息を吸い込み
ゴゥッと。
火炎の息をウォードックに浴びせる。
ギャイイイン!
灼熱の火炎を浴びたウォードックの悲鳴。
だけど。
霧生の掛け声の後。
キマイラに次の瞬間起きたのは、爆裂火球大爆発じゃ無くて。
吹雪の嵐。
魔術師ランク3の攻撃魔法「ブリザード」
指定範囲内に凍結する氷の嵐を起こす魔法。
輝く冷気の嵐が、キマイラを飲み込み襲い掛かった。
キマイラの悲鳴。
ギュウアアアアア!!
……だよな!
そうだと思っていたよ!
だから俺は何も言わなかったし。
榎本さんも同様だった。
俺はブリザードで絶叫を上げているキマイラに突き進み
吹雪の嵐から逃れようと藻掻いているキマイラに斬りつけた。
一太刀でまず、ヤギの首を真横に切り落とし。
二太刀で、手首を返してその胴体を半ばまで切断する。
そして三太刀目に、俺はキマイラの足を2本切断。
最後にキマイラのライオンの首を、動けなくなったところで俺は刎ねた。
その瞬間、キマイラは塵になり、消滅する。
――勝てた。
勝利の高揚感。
だけどさ……
さすがに、侮れない強さだったと思う。
まず、これに慣れないと。




