第60話 葉書でバレた件
霧生お前、親御さんに迷宮のこと言ってなかったのか?
俺はまずそこに驚いた。
俺も牝豚には何も言って無いけど、それは俺の家が終わってる家だからなわけで。
霧生は言ってると思っていた。
「郵便物にお役所からの通知があったんだよね」
手の中のウーロン茶のグラスから、ウーロン茶をストローで吸い上げながら彼女。
クラス取得者は定期的に「取得クラスの内容に変化が起きたときは速やかに届けに来てください」という内容の葉書を送りつけられる。
番人を倒したり、深層の他のクリスタルに触れて、クラスの内容に追加変更が起きた場合。
速やかな情報更新が求められる。
これも役所の把握しているクラスの内容と、現在のクラスの内容にズレがあると問題になるからやっていること。
なので「更新が必要なんて知らなかった」とゴネさせないための仕組みが必要になるわけだ。
実際、こないだ俺たちがパーティでブラックトータスを倒してランク3になったとき。
迷宮の帰りに役所に寄って、ランクアップの報告をしに行った。
……ランクアップ直後に、間を置かないで再びクラスの内容の変化が起きてるわけ無いんだから送ってくんなよ。
そう言いたいけど……
そういう作業をすると、おそらくかなり労力が増えるんだろうね。
だから多分やってないんだと思うわ。
「それ、お母さんが見つけちゃってさぁ。もう、大喧嘩」
渋面で愚痴る霧生。
夏海アナタ、クラスをいつの間に取ったの!?
まさか迷宮に潜ってるんじゃないでしょうね!?
そう、詰められたらしい。
……多分、普通の親はそういうリアクションするんだろうな。
ウチは何にも言って来なかったよ。
もしかしたら郵便物を見て無いのかもしれないけどな。
「私がどうしても迷宮最下層を知りたいからクラスを取ったって言ったら、危ないからやめなさいって」
すごく納得いってない顔で呟く霧生。
「私がどうせ来年成人するんだし、1年早いことはそれほど問題無いでしょって言ったら、そう言う問題じゃない、危ないことをするべきじゃないって」
チューッと、ウーロン茶を飲み干して。
空になったグラスを両手で握りながら
「……お兄ちゃん自衛官なのに、それには何も言わなかったのにさぁ」
自衛官だって危ないじゃん。
戦争起きたら率先して戦争に加わるのがお兄ちゃんなんだよ、って言ったら。
戦争は起きてないって。
どういう返しよ。
納得できるわけ無いじゃん。
……霧生、だいぶイライラしてるな。
ドリンクバーに新しいウーロン茶を汲みに行かずに
入店時にサービスで出て来たコップの水に入ってた氷を
喋りながら、コップの中でストローでかき回してガラガラ言わせていた。
「で、最終的に迷宮探索者でセレブ生活している人はほんの一握り。ほとんどはバイト生活ばかりなの知らないの、って言って来たから」
それでさっきの啖呵か。
なるほど……
彼女の話を聞いて、大変だな、は言い辛かったし。
頑張れ、も言い辛い。
なので俺は
「……霧生が居ないと詰んでた局面、いっぱいあるからな……」
俺はそう、一言だけ。
彼女に返した。