第6話 襲われていたのは
俺の耳に突然叫び声が飛び込んできた。
甲高い、焦った声。
……誰か襲われている!?
反射的に体が動く。
剣を握り、声のする方へ全速力で走る。
石畳の通路を駆け抜け、角を曲がった瞬間、俺の目に飛び込んできたのは──
紺色のジャージに身を包み、リュックを背負った小柄な人影。
手に金属バットを握り、必死に振り回している。
その周りには、緑色の醜いゴブリン5匹。ナイフや棍棒で武装し、キーキーと叫びながら人影に襲いかかっていた。
……ダメだな、あれじゃ。
ゴブリンには高い戦闘の技量はないけど、奴らは戦い慣れてるわけだ。
金属バットで牽制してるけど、あれじゃお話にならない。
あと何秒持つか分からないな。
そして襲われてるのは女だ。背が低い。
ヘルメットとゴーグルで顔は見えないけど。
総合して考えて、あれはプロの探索者じゃないな。
装備が素人臭いし。
……何しに来たんだ、阿呆なのか?
1人で素人が潜るなんて、正気じゃない。
普通、クラス取得を目指すなら、ガイドを雇う。
相場は50万くらいだけどな。
高いと思う奴もいるだろうけど、その50万で買うのは、安全に2層のクリスタルに触れてクラスを取得するチャンスだ。
その価値は十分にある。
その金を惜しみ、勝手に潜ってクリスタル目指して死ぬ奴なんて腐るほどいるわけで。
そして正直、俺はそういう奴らは死んで当然だと思ってる。
自分の命を賭けたんだろ?
クラスを得て、能力をブーストしたいって欲望に命を賭ける価値があるって思ったんだろ?
だとしたら、そいつは賭けに負けただけ。俺には関係ない。
知らん……
そう思う。
けど、その瞬間、脳裏に牝豚の見苦しい顔が浮かんだ。
……なんかここでアイツを見捨てたら、牝豚を見捨てる気分を味わい、復讐心を疑似的に満たすために、生贄に差し出すみたいじゃないか……
そう思ったとき。
気づけば、俺は駆け出していた。
「こっちだ!」
叫び声とともに、スキル<挑発>を発動する。
ランク2に到達した戦士が使える技だ。
その効果は……自分の声を聞いたものが敵対者だった場合、その注意を自分に向けること。
俺の声に、ゴブリン5匹が一斉に反応し、目を血走らせて突っ込んでくる。
いいぞ、来い!
ゴブリンのナイフ突きを避け、剣で一閃。
首が飛ぶ。
2匹目が棍棒を振り上げるが、俺は横にステップして胴に斬りつけた。
それだけで胴体が半ばまで切断される。
3匹目がナイフで斬りかかって来たが、足を払って転ばせた後、喉をひと突きにした。
そこまでやると残りの2匹は戦況不利と見て逃げ出す。
倒した3匹は、絶命と同時に塵になって消滅する。
……逃げた奴は追う価値が無いので放置する。
ゴブリンはどうせいくらでも湧くから、躍起になって殺す価値は無い。
息を整え、剣の血振るいの動作をして鞘に納める。
そして俺はへたり込んでいる女に近づき、手を差し出した。
「……立てるか?」
女は震える手で俺の手を取り
「……ありがとう、吉常君」
……は?
コイツなんで俺の名前知ってんだ?
そう思い、問いかける前。
女はヘルメットとゴーグルを外した。
それで女の顔がはっきり見えた。
背が低くて、眼鏡の奥の大きな目。おさげの髪。
……霧生夏海だった。
えっと
「お前……何でここにいるんだよ!?」
……俺は訊かずにはいられなかったよ。