第57話 VSブラックトータス
魔剣ニヒム。
鞘から抜いてみると、驚いたのは
刀身も黒かったことなんだよね。
何だろう……?
漆塗りの色合い。
それに似てる気がする。
金属の質感はあるんだけどさ。
抜いた直後の感覚としては、別に普通。
人を斬りたいとか、血を見たいとかは別に思わない。
「どう? 抜いてみた感じは?」
霧生が緊張した面持ちで訊ねて来たので
「……良く分からない」
正直に今の気持ちを答える。
実際に使ってみたらまた違ってくるかもしれないけど、今は平気だった。
……ここまで使い続けて来た長剣は、売り払うことはなかったけど、予備の武器に格下げ。
これからの俺のメインウエポンは魔剣ニヒム。
ありがとうノーマル長剣。
これからよろしく魔剣ニヒム。
心でそう呟き、俺はニヒムを鞘に戻し。
「榎本さん、霧生、行こう」
そう、呼びかける。
2人は頷いた。
……俺たちの前には門がある。
番人の間に飛ばしてくれる、転移の門が。
外観は第2階層に存在したメタルタイガーの転移門と一緒。
入り口部分に空間の歪みがあり、揺らめいていて中は見えない。
この中に入ると、この第4階層の番人のブラックトータスと戦える……!
一応、前情報は榎本さんから聞いている。
人面の方の口から吐きだす毒液は腐食性だから、浴びると非常にまずい。
なので正面には絶対に立つなということと。
蛇の尻尾の口から吐きだす水鉄砲は、吐き出す前に予備動作があるから、その起こりを見逃すなということ。
それを何度か復唱し。
俺は転移門を潜った。
番人の部屋に入ると。
その部屋は多分直径10メートル以上ある円形の部屋で
地面は砂が敷き詰められていた。
そして部屋の中央に。
ソイツが居た。
四つん這いの、巨大な亀。
頭部は頭髪の無い男性のもので。
尻尾は蛇で
体色は聞いた通り黒。
色合いは髪の毛の黒に近い気がした。
クアアアアア!
番人・ブラックトータスは吠える。
頭部がヒトだから、人語を話す可能性を少し期待したけど。
そうではなかったらしい。
だけど多分、知性はあるはず。
メタルタイガーがそうだったし。
「吉常くん! 行って!」
霧生の声。
牽制の意味でファイアーボールをブラックトータスに1発叩き込む。
爆裂する火球が黒い巨大亀を飲み込むけど、致命打にはなってない。
ダメージは多少あるみたいだけどね。
ギュア!
短い悲鳴と共に、霧生達へ向かう足を止め。
尻尾の蛇の鎌首をあげて、水鉄砲の予備動作……蛇の口の開閉を連続でする……を行った。
霧生たちはそれを受け、霧生の構えた盾の影に隠れる。
盾で身を護れば、水鉄砲で傷を負うことは無いし。
俺はブラックトータスの死角に回り込みつつ抜刀する。
魔剣ニヒムを。
作戦はこうだ。
ブラックトータスが2人に気を取られている間に、死角から胴体に斬りかかって一発で仕留める。
闇商人のプレゼンが正しいのなら、多分それでキメられる……!
気分を高揚させるために雄叫びをあげたいところであるけど、俺はそれは意識して抑えた。
不意打ち仕掛けるんだからあり得ない。
そしてブラックトータスの尻尾の口が、水をまるでレーザービームのように吐き出す。
それが霧生の盾を直撃するが、盾は迷宮アイテムなので絶対に破損しない。
よって、守れた。
確か話だと、1度吐き出すと10秒くらい水を溜める時間が要るそうな。
よっしゃ!
俺は剣を大上段に構えて、突進した。
だけど
そのときだった。
ブラックトータスが、グイと自分の人面をこっちに向けて来て
その口を、大きく開いたんだ。