第55話 危険な魔剣を
「……デメリットは?」
「切れ味が良過ぎるせいで、1度使うと敵を斬りたくてたまらなくなる点ですね」
つまり好戦的になるってことか。
意外に大きなデメリットかもしれない。
弱い敵ばかりなら問題ないかもしれないけどさ。
敵が強い奴ばかりになると、好戦的って……
パーティを死地に導くかも……
でもな
「……それ、いくら?」
「10万円です」
「吉常くん!」
俺が購入の意志を示したせいか、霧生が驚きと、俺の真意を問うような声で言って来た。
「まさか買う気なの!?」
「……ああ」
俺は頷いた。
「でも、この剣は危険だと思うよ!?」
「分かってる」
霧生の訴えにそう言葉を返す。
闇商人は敵って言ってたけどさ。
人によっては
動物殺し。
もしくは
辻斬り。
……そっちに行ってしまう使い手も居るんだと思う。
だけど
「俺、アイツに勝ちたいんだ……アイツ……四戸天将に」
俺は心中を吐露した。
アイツは1000万円もする高額の魔剣を持っていた。
アイツに勝つつもりなら、俺も魔剣を手にしないといけないのではないか?
そう思うんだ。
無論、先に進んで上級職を手に入れるのも必要だけどさ。
でも、俺が魔剣を正攻法で買うのに一体何年かかるか分からない。
それに1000万の魔剣に匹敵する強力な魔剣が手に入る確証も無い……
「俺、これまで自分が独立できれば、1番になれなくても良いって思ってた。迷宮探索者で食べていけるならそれでいいって」
霧生は黙って聞いてくれている。
俺は自分の思いを語った。
「……でも。アイツには勝ちたい。絶対に勝ちたいんだ……」
そして俺が気持ちを全て言葉にした後。
霧生は少し悩んで
「……分かったよ。吉常くん」
フゥ、とため息を吐き。
認めてくれた。
ただ、俺を正面から見つめて。
「でもね、吉常くんが剣に呑まれているって思ったら、私、言うからね? そのときは剣を手放してよ? 良いよね?」
俺はその言葉に素直に頷く。
霧生が言うなら俺は受け入れる。
「……話はまとまったみたいね」
榎本さんが俺たち2人の話を見守っていたけれど。
俺たちの話がついたのを確認して、そう言った。
「で、お金はどう払えば良いの? 振り込みはナシよ?」
榎本さんの
「無論です。現金払いです」
闇商人はにこやかな声でそう答える。
闇商人曰く、指定の日時に迷宮2階層のエレベーター付近で待ち合わせらしい。
迷宮2階層のエレベーター付近なら、人も多いから待ち伏せもしにくいし。
なるほどなぁ。
……一応、別れ際に霧生が、闇商人の差し出して来た魔剣ニヒムをアナライズで分析した。
結果として、闇商人が言ったとおりの魔剣で。
偽物をつかませて、俺たちから金を巻き上げる気は無いようだ。
後は金を用意するだけ……