第52話 魔剣が欲しいな
「この階層にいる2番目の番人って、どんなモンスターなんですか?」
ボトルシップから変形したボートの上で、霧生が榎本さんに訊ねた。
俺も訊きたい。
水飛沫を飛ばしつつ、自動で水の上を走るボート。
順調に動いてる。
船上の今は危険が無いから、こういう会話をするチャンスだ。
ボトルシップボートは、大きさが「太平洋横断ー!」とか言う人のヨットくらいあるから、かなりゆったりだし。
リラックスして話せるよ。
「ここの番人は、大亀ね。体長数メートルある真っ黒い人面亀。そして尻尾が蛇なのよ」
当時榎本さんの仲間だった魔術師がアナライズした結果曰く、名前は「ブラックトータス」だとか。
亀らしく、とても固い甲羅を持ってて。そこは刃が通らない。
でも、動きは鈍い。
なので動きで翻弄されると言うことは無いらしい。
ブラックトータスの主な攻撃方法は、水で。
尻尾の蛇の口から超高圧の水鉄砲を撃って来るそうだ。
当然、当たるとただでは済まない。
「当時の仲間で、足に1撃を喰らって貫通したヒトがいたわよ」
あと
「人面の方の口からは、毒液を吐いてくるわね」
それは腐食性の毒液らしく、目に入ると失明不可避なんだってさ。
……危ないな。
「だから、盾を購入するか、宝箱から見つけておくのは必須だと思う」
迷宮産の盾なら壊れないので、確実に水鉄砲も防げるし。毒液も受け止められる。
話を聞くと、そこは頷けた。
……あと、出来れば。
魔剣もあると嬉しいよな……
この階層で出るかどうかは知らないけど。
絶対に出ないなんてそんなことは多分、無いと思うし。
ヒュージスター。
簡単に言うと体長1メートル近い巨大な黄色いヒトデ。
ただ、一般的なヒトデと違い、こいつはとても素早く。
目も耳も無いのに、正確にこっちの存在を察知して、襲ってくるんだ。
身体全体で音を聞いているのか、それとも臭いを察知してんのか。
良く分からない。
霧生はその辺、どう考えているのかな?
後で聞いてみるか。
そんなことを思い、俺は。
現在俺たちの周囲を囲んでいる、その5匹のモンスターを睨んでいる。
4階の番人のいる部屋がある島に辿り着き、そのルートを開拓中に。
遭遇したんだ。
油断なく注視していると
そのうち1匹が、5つの足で跳躍し俺の顔目掛けて飛び掛かって来た。
身体ごと人間の頭に覆い被さって来て。
牙が生えたその腹の口で直接頭部を貪り喰らうのが、コイツの攻撃方法らしい。
つまり、捕まるとほぼ死亡確定。
こいつの背中側は、硬質で簡単には刃が通らないんだよね。
まあ、その分腹側は柔らかいので。
「せいやっ!」
そこに斬り上げの斬撃を浴びせると、一瞬で塵になって消滅する。
ビビらなければそう難しい相手じゃないよ。
「えいっ!」
隣では、榎本さんがファウストで。
ヒュージスターを空中で串刺しにして仕留めていた。
「ひゃはは! 燃えろー!」
そして霧生に至っては、魔法の掛け声で遊びが出来るほど余裕。
ファイアーボールを発動させて、右手から発射した爆裂火炎弾で、遠距離で3匹をまとめて焼き払っていた。
「……盾よ。なかなか良い戦利品ね」
そして出現した宝箱を榎本さんが開けてくれて。
中を確認すると
中にはポーションが3つと、円形の盾が入っていた。
直径1メートルくらいありそうな。
材質は金属製。
飾り気は……ない。
そこに
「魔法の盾ではないみたいです。ポーションは毒消しですね」
アナライズを即座に使用した霧生の言葉。
やっぱり。
「まあ、魔法の盾ではなくても、迷宮産の盾であるってだけで価値あるから……とりあえず、夏海ちゃんが持つといいと思うわ」
夏海ちゃんは手ぶらだし。
ちょうどいいでしょ。
まぁ、そりゃそうだな、
……でも。
魔剣、入って無かったなぁ……
大きな宝箱だから期待したのに。
どうしても、それに期待してしまう俺がいた。