第50話 魔剣っておいくら?
俺は今まで、誰かに勝ちたいと思ったことは無かった。
ただ、第6階層で稼げる身になって、自立できるようになれればいい。
別に皆に一目置かれたいとか、それでモテたいとか。
そんなのどうでも良かったんだ。
自立できればあの牝豚を切り捨てることが出来るし、父さんに謝りに行くこともできる。
それだけできれば後はどうでもいい。
ずっとそう思っていた。
だけど……
四戸天将……
あの男に勝ちたい。
初めて思ったんだ。
あいつに憧れや誇らしい気持ち、尊敬する気持ち、愛されたい気持ち。
そんな気持ちは少しも無い。
ただ、悔しかった。
自分が騙されていた場合、俺がどうなるかを全く考えていなかった。
アイツはあのとき
自分の精子が人殺しなら処分しないと。
そう言っていた。
アイツにとっては俺はその程度の存在なんだ。
湧いてくる虫みたいな。
1人の人間としては見てくれていない……
まったく、牝豚とお似合いなんじゃないのか……?
クズ野郎が……!
「吉常くん?」
突然霧生に声を掛けられた。
ハッとした。
つい、考え込んでいたみたいだ。
「あっ、ゴメン。明日からの夏休みの話だっけ?」
「そうそう。毎日潜るのは恋さんの事情あるから無理だよね?」
今日、終業式で。
明日から夏休みだ。
で、どうするかの話をしてたんだけど。
短期バイトの話が出たときに。
霧生が「魔剣の相場っていくらくらいなの?」って言ったんだよ。
そこから連想でアイツが持ってた魔剣ガイアソードを思い出し。
そして霧生と会話しながら、続きでアイツについて考えて。
考えすぎてしまった。
……他人と話しているときに思考を飛ばすのは失礼過ぎるよな。
気を付けないと。
「榎本さんは平日は大体バイトで埋まってるから、やっぱ土日しか潜れないのは変わらないはずだしな」
「私たちもそうする……? それとも図書館で勉強する……?」
霧生の提案。
バイトな……
届かないと思うんだよな。
さっきも言ったけど。
魔剣には。
話の流れとして。
多分その目的だろうし……
私たちも魔剣を買わない? って。
魔剣の相場はおよそ500万円って言われてる。
榎本さんの魔槍ファウストはかなり安い方なんだ。
300万円ってのは。
例えば。
ファイアーボールの魔法を使用できるようになる「フレイムエッジ」
これが500万円で。
使い手の斬りたいものだけしか斬らず、それ以外には致命傷を与えない剣「イビルキラー」は800万円。
そして握るだけで使い手の負傷を癒し、痛覚を遮断する剣「ヴァルハラブレイド」が2000万円……
強力なのになると天井知らずだ。
高校生のバイトじゃ稼ぎ出せないよ……
だから
「勉強は大事だろ」
無難にそう言っておく。
まぁ、バイトはするけどな。
生活費は稼がないと駄目だし。