第5話 ソロ活動で、遭遇した
週末がやってきた。
いつものように俺は、スマホで迷宮探索者の求人サイト「ギルガメッシュ」をチェックする。
けど、今週は期待通りの……俺の条件に合う求人は無かった。
この間の仕事について、応募者からの高評価を入れておいた山田さんのパーティーも、今週は募集を出してない。
まあ、仕方ない。
だったら、今日は実地訓練を兼ねたソロ活動だな。
迷宮探索者にとって、潜らないって選択肢は無いんだ。
週に1回は潜らないと、腕が鈍る気がする。
腕が鈍れば、臨時バイトの採用なんて夢のまた夢だ。
それに、実戦の場に立たないと、得られないものがある。
あの緊張感、剣を握る感触、敵の動きを読む瞬間──それが俺を強くする。
俺は家を出て、迷宮のすぐそばにある政府直営の店「アドベンチャラーズ」に向かった。
カウンターで会員証を見せると、職員さんが「あ、はいはい。どうぞ」と慣れた口調で対応してくれる。
すぐに金属製の籠が差し出される。俺はスマホや財布など貴重品をそこに入れる。
迷宮の中じゃ、機械類は全部壊れる。
なんでだか分からないけど、スマホもカメラも迷宮に入ると壊れて2度と機能しない。
だから「ダンジョン配信」なんて創作の中だけの話なんだな。
スマホその他を預け、代わりに職員さんが奥から持ってきたのは、俺の相棒──迷宮産の長剣。1本15万円。
土方のバイトを死ぬほど頑張って手に入れた、俺の宝物。
迷宮産の武器は消耗しない。これ、マメな。
普通の剣なら、敵を斬るたびに刃が潰れて使い物にならなくなるけど、迷宮のアイテムは違う。
使い捨てのもの以外、基本的に壊れない。
だから、迷宮探索者を目指すなら、まず迷宮産の武器を手に入れるのが第一歩なんだ。
普段、この剣はここで預かってもらってる。
街中でこんなもん持ち歩いてたら、職務質問されるリスクがあるからだ。
剣を受け取り、俺は迷宮の入り口へ向かう。
ミリタリー系の装備を身にまとい、軍用リュックを背負って、剣を右手に握る。
心臓が少しずつ高鳴る。
目の前には迷宮の入り口。
黒い闇の裂け目……穴だ。
意を決してそこに飛び込むと……
瞬間、眩暈のような感覚が襲う。
視界が一瞬揺れて、気がつくとそこはもう迷宮の中だった。
冷たく湿った空気、苔むした石畳の床、遠くで響く水滴の音。
見慣れた風景だ。
天井が薄く光っており、懐中電灯やランタンみたいなものが無くても視界は問題ない。
後ろを振り返ると、入り口同様の穴がある。
帰るときはここを潜るんだ。
……さて、行くか。
俺は剣を軽く振って感覚を確かめ、ゆっくり歩き始める。
この階層は、ゴブリンとスライムしか出て来ない。
ゴブリンは性格が残虐非道な中学1年生と例えるのが最も適当。
そんなレベルの危険性のモンスター。
まぁ、油断したら危ないけどな。
中1でも、智恵はあるし。
加えて向こうは倫理観がゼロで、卑怯なことを平気でやるからね。
迷宮第1階層の構造はもう暗記してるので、迷うことは無いけど、曲がり角に来ると待ち伏せを恐れて警戒はする。
……よし、居ないな。
目の前の曲がり角の安全性を確認し、歩き出そうとしたら。
「キャアアアアア!」
……曲がり角の向こうから。
女の悲鳴が聞こえて来た。