第49話 アイツに勝ちたい
「あの人、謝らないで居なくなった! 最低だよ!」
天将が去った直後、霧生が怒声をあげた。
「吉常くんのこと、一方的に殺人犯って決めつけて! 一言疑って悪かったくらい言えないの!?」
そして霧生は天将を批判する言葉をギャンギャン言ってくれた。
本気で怒ってるみたいに見えた。
……嬉しかった。
「……多分、安心して良いと思うわ。吉常くん」
そして榎本さんが言ってくれた。
黄金のリンゴはきっと正規の金取引所で流れているはず。
そして、その取引相手を割り出すのは難しくないはずよ。
夏海ちゃんの家庭環境を調べ上げていたように、エンマには協力関係にある調査組織があるみたいだし。
……なるほどな。
探偵会社なんかがバックについてるのかな?
で……
ここからは俺の想像だけど、真犯人が割り出されたら、ラドンの倒し方を訊ねるのかもしれないな。
そこに説得力が無ければ、嘘を吐いているってことになるし。
犯人がパーティなら、パーティメンバー別々に、ラドン討伐の経緯を訊ねれば一発だ。
そこで概ね同じ内容にならないなら、嘘を吐いているってことになる。
だからまあ、俺の疑いは晴れたと見て良い。
安心はする。
……だけど。
重ねて言うが、別に俺は実父に対して幻想を持っていたり、恨んでいたりはしてなかった。
会ったこともなかったし、何より牝豚が酷過ぎた。
牝豚を憎むあまり、憎悪が向かなかったんだ。
……でも。
実際に会ってしまって、俺が生まれるまでの経緯を聞いてしまった。
あの男、俺のことを「人生の汚点」って言いやがった……
自分の決断の結果なのに。
アンタが決断しなければ、俺は生まれなかったんだ……ッ!
しかも、あの男が牝豚に騙されただけの間抜けだったならまだいい。
アイツは想定してやがったんだ。
騙された場合、自分の溜飲を下げるために行う報復計画を練ってやがった。
そこに、俺に対する配慮は一切無かった。
なんて勝手なんだ……!
俺のこと、心底どうでも良かったんだな……!
本当に……悔しかった。
「ウオオオオオオオ!」
そして。
第4階層をその後彷徨って。
探し回った「ゾンビパイレーツ」に遭遇したんだ。
ゾンビパイレーツは海賊の格好をした槍を持つゾンビ。
聞いていた通りの姿で。
見つけた瞬間、飛び掛かっていた。
どうしても頭空っぽにして戦いまくりたかったんだ。
そうしないと何かが埋められない気がした。
「吉常くん! 落ち着いて!」
まるでバーサーカーみたいになってる俺に、霧生がそう言ってくれたけど。
そのときには俺は、ゾンビパイレーツを半分くらい倒してて。
傷も少しだけ負っていた。
「……悪かった」
そう言ってスタンドプレーをやめて榎本さんに合わせるようにした。
そして連携して、ゾンビパイレーツを殲滅。
出て来た宝箱の中から、お目当てのボトルシップをゲット。
「やったね! これで番人がいる島に行くことが出来るよ!」
霧生は俺に、やけにテンション高く喜びを見せてくれる。
口には出さないけど、俺を励まそうとしてくれているんだろうか……?
霧生は……優しいな。
それが本当に有難かった。
もやもやは消えない……
ずっと燻っている。
俺は思った。
俺……あの男に勝ちたい。
あの男……四戸天将に。