第46話 親父や
「……アンタ、俺の兄さんか?」
俺は遺伝学上の父親には会ったことは無い。
面会を求めたりしなかったんだろうと思ってる。
何せ、牝豚を捨てたんだから。
面会なんて求めるわけがない。
だからある意味当然だと思ってる。
で、俺は
……別にその遺伝上の父親を恨んではいなかった。
これは、それ以上に牝豚を憎悪しているからだと思う。
なので、普通に。
怒りも嫌悪も恨みも無く。
その言葉が出たんだ。
俺と顔が似すぎてて、ちょっと年上。
だからアンタは腹違いの兄さんなのか、と。
だけど
その、俺とよく似た顔を持つ男は嫌な顔をした。
そして言ったよ
「ちゃうわ」
本当に嫌そうに
「……親父や」
……え?
絶句する俺に
「冥土の土産や。教えたる……」
男は語った。
自分と俺の関係性を
「お前の母親とはな、俺がダチの結婚式に出たときに、二次会で出会うたんや」
別に聞きたくはない話だった。
だけど……
俺の頭に否応なく刻みつけられていく。
「見た目は綺麗やったけど、やたら俺に絡んできな。なんでも俺が好みやったんやと」
……何年前の話なのか。
見た目年齢と、話の内容が釣り合わない……
「何でそんなに若いんだアンタ」
思わずそう呟くと
「……定期的に若返り薬を飲んでんねん。第8層で取れるアイテムや」
飲むと肉体年齢がピーク時にまで若返る。
寿命までは延びないが、8層に到達した迷宮探索者にとっては重要になるアイテム。
……そういやあったな。
そんなアイテム。
確かオークションにかけると、300万円以上の値段が付くんだっけ。
俺の実父を名乗る男の異様な若さに納得する。
そして男は舌打ちした。
「……話の腰を折るなや。で、そのときお前の母親とはそこはそれで別れたんやけど……」
そのとき連絡先を交換してて。
後日、牝豚から連絡を取って来た。
そのとき、こう言って来たそうだ。
「……自分の旦那が無精子症なんだが、跡継ぎを熱望されていて苦しんでいる。なのでどうか自分を妊娠させて貰えないだろうか?」
……え。
男は俺をゴミを見る目で見ていた。
「まぁ俺としては、見目綺麗な女とヤれる上に、100万礼金が出るとなれば、断る理由あれへんなと思って引き受けたんや」
……ちょっと待てよ。
「アンタそれ、嘘だったらどうするんだって考えなかったのか?」
嘘だったら既婚女性を勝手に妊娠させた間男になる。
そうなったら、色々問題が起きるのに。
でも男は
「無論考えたで? でもその場合は思い知らせてやろうと色々準備はしとったがな」
そう言って。
そのまま続けた。
自分としては生涯独身を決めていたから、子無しを覚悟していたけど。
この機会をいかせば、自分の子供を残すことができる。
しかも双方win-winで。
騙される可能性は考えたが、さすがにこんなことで他人を嵌めようとする恥知らずは居ないだろうと思ったのと。
仮に騙されても、報復手段を考えておけば別に問題ない。
だから最終的に決断した。
……で。
結果は牝豚が恥知らずにも嘘を吐いてて。
結果、生まれたのが俺なのか……
俺の心に……穴が開いた気がした。